乳がんの再発・転移
転移・再発乳がんには、どのような治療法がありますか
乳がんが肺、肝臓、骨などほかの臓器に転移することを「遠隔転移」、手術した側の乳房やその周囲の皮膚やリンパ節に再び腫瘍ができることを「局所再発」といいます。再発とは、乳がんができ始めたころから体のどこかにあった微小ながん細胞が、初期治療でも死滅せずに、あとになって出てきた状態です。10年以上経ってから再発し、遠隔転移が判明する人もいます。
局所再発したら手術が基本
温存した乳房内に再びがんが発生したときには、基本的に乳房全切除術で乳房をすべて切除します。
乳房全切除術後2年以上経ってから周囲の皮膚や胸壁に再発し、ほかの臓器に転移がなく切除が可能であれば、手術で再発腫瘍とその周辺を取り除きます。放射線療法を受けたことがなければ、術後に放射線治療も行います。
局所再発でも、手術から再発までの期間が短く(一般的には2年以内)、炎症性乳がんのように皮膚や胸壁全体が赤みを帯びている場合には、先に薬物療法を行い、効果があれば手術や放射線療法を行います。
遠隔転移では薬物療法を
遠隔転移の場合には、薬による全身療法で進行を抑え、症状を和らげながら、できるだけ長くがんと共存することを目指します。薬物療法は、がんのサブタイプ分類や患者さんの体の状況(閉経の状況、臓器機能など)、本人の希望などによって選択します。最初の薬物療法が効かなくなったら、二次治療、その後は三次治療といった具合に、薬を変え、がんと共存しながらこれまで通りの生活が続けられるようにします。
ホルモン受容体陽性かつHER2陰性
CDK4/6阻害薬のパルボシクリブかアベマシクリブと、アロマターゼ阻害薬のアナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンのいずれかを併用します。閉経前の場合は、さらに、LH-RHアゴニスト製剤を併用し卵巣機能を抑えます。
軟部組織や骨のみの転移の場合、内臓への転移があっても症状がなく生命の危険がない場合、初期治療からかなりの年月が経ってから再発した場合には、閉経前ならLH-RHアゴニスト製剤とタモキシフェン、またはアロマターゼ阻害薬、閉経後ならホルモン薬のフルベストラントかアロマターゼ阻害薬の単剤投与も選択肢です。
最初の治療が効かなくなったら、フルベストラント+CDK4/6阻害薬に切り替えます。閉経前なら、LH-RHアゴニスト製剤を併用します。二次治療、あるいは三次治療として、エキセメスタンとmTOR阻害薬のエベロリムスの併用療法を行うこともあります。広い範囲の肝転移や肺転移など命の危険がある内臓転移があるときには、ホルモン療法ではなく、抗がん剤による治療を行います。
抗がん剤が必要な人
ドキソルビシン、エピルビシンといったアンスラサイクリン系抗がん剤とシクロホスファミドの併用療法、あるいは、ドセタキセル、パクリタキセル、ナブパクリタキセルといったタキサン系抗がん剤による治療が第一選択です。パクリタキセルに血管新生阻害薬のベバシズマブを併用することもあります。
術前か術後にアントラサイクリン系とタキサン系の抗がん剤を使い、あまり時間が経たないうちに再発した場合には、カペシタビン、S-1といったフッ化ピリミジン系抗がん剤、またはエリブリンなどで治療します。
BRCA1/2 遺伝子検査陽性
HER2陰性の人に対しては検査を行い、陽性だった場合には、最初の抗がん剤治療の前に、PARP阻害薬のオラパリブの投与を行います。また抗がん剤治療が効かなくなった後でもオラパリブ投与は可能です。オラパリブは1日2回内服する薬です。
HER2低発現
抗がん剤治療後に病状が進行、または再発したHER2低発現の人は、抗HER2薬のT-DXd(トラスツズマブ デルクステカン)を3週間に1回点滴投与します。T-DXdは分子標的薬のトラスツズマブにデルクステカンという抗がん剤を結合した薬です。
HER2陽性
抗HER2薬のトラスツズマブとペルツズマブに、タキサン系抗がん剤(ドセタキセルかパクリタキセル)を併用します。効果がなくなったら、抗HER2薬をT-DXdに切り替えます。T-DXdが効かなくなったらT-DM1、その後は、ラパチニブとカペシタビンの併用療法などで治療します。
トリプルネガティブでPD-L1陽性
生検で採取した組織を用いてPD-L1検査を行い、陽性であれば、抗がん剤のナブパクリタキセルに、免疫チェックポイント阻害薬の一種でPD-L1阻害薬のアテゾリマブかペムブロリズマブを併用する治療が第一選択です。ペムブロリズマブには、パクリタキセル、あるいはカルボプラチン+ゲムシタビンを併用することもあります。
PD-L1とは
がん細胞に対する免疫を抑制したり停止させたりする働きを持つタンパクです。がん細胞はPD-L1を発現することで、免疫細胞の攻撃を逃れています。免疫チェックポイント阻害薬である一種のPD-L1阻害薬は、この仕組みをブロックすることで免疫細胞を活性化する薬です。PD-L1検査は、生検で採取したがんの組織を用いてPD-L1の発現度合を調べる検査です。
高頻度マイクロサテライト不安定性陽性
DNAの修復機能の低下の有無を調べるマイクロサテライト不安定性(MSI)検査で陽性(MSI-High)と診断された場合は、抗がん剤治療の後、ペムブロリズマブが選択肢になります。ただし、乳がんでMSI-Highとなるのは1%未満と、かなりまれです。
骨転移の場合には、乳がんの薬物療法のほかに、骨転移治療薬のゾレドロン酸やデノスマブを投与し、場合によっては放射線療法や整形外科的な手術を行います。
脳転移では主に放射線療法が行われ、病巣が1個でほかの臓器に転移がない場合には手術を考慮します。いずれの場合も担当医と相談し納得して治療を受けることが大切です。
がん遺伝子パネル検査とは
次世代シークエンサー(NGS)と呼ばれる遺伝子解析装置を用いて、100 個以上の遺伝子異常の有無を一度に測定する検査です。がんゲノム検査とも呼ばれます。
乳がんの場合、がん遺伝子パネル検査が受けられるのは、標準治療が終わった患者です。保険適用となる遺伝子パネルには、生検や手術で採取した組織を用いて124個の遺伝子異常を調べる「オンコガイド(OncoGuide)NCCオンコパネル」と、324個の遺伝子異常を調べる「ファウンデーションワン(FoundationOne)CDxがんゲノムプロファイル」があります。十分な組織がないときには、血液を用いた「ファウンデーションワンリキッド(Foundation One Liquid) CDxがんゲノムプロファイル」で検査します。
がん遺伝子パネル検査は、がんゲノム医療中核拠点病院か同拠点病院、同連携病院※でのみ受けられます。
参考資料
もっと知ってほしい乳がんのこと 2023年版,p.17-18