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CNJ活動報告

前立腺がんセミナー2018 in 札幌 〜もっと話そう前立腺がん転移のこと くらしを守る早期対応のすすめ〜

本レポートは2018年9月29日(土)に開催した時の内容です。医療情報は日々進歩しています。最新の情報と変わっている場合があります。また講師の所属や肩書きもそのときのものです。ご注意ください。

もっと話そう前立腺がん転移のこと~くらしを守る早期対応のすすめ 札幌セミナー

座長:永森 聡先生(北海道がんセンター 副院長)

目次

【講演記事1】前立腺がん転移について知ってほしいこと
丸山 覚先生 北海道がんセンター 前立腺センター長

【講演記事2】転移の早期発見・治療のために放射線でできること
西山 典明先生 北海道がんセンター 放射線診療部長

【講演記事3】治療と向き合う上で大切なこと~骨転移を体験して
川﨑陽二さん

【Q&Aディスカッション】
パネリスト:永森 聡先生 丸山 覚先生 西山 典明先生 川﨑 陽二さん
司会:武内 務さん(NPO法人腺友倶楽部 理事長)

【講演1】

前立腺がん転移について知ってほしいこと

丸山 覚 先生
北海道がんセンター 前立腺センター長

高齢者に増える前立腺がん

前立腺がん患者は増加傾向にあり、日本人男性の11人に1人が生涯のうちに罹患するとされています。高齢者に多いがんで、現在は患者全体の約半数が75歳以上ですが、その割合は2025年には約6割にまで増えると見込まれています。

リスク因子のひとつがこの「高年齢」で、60歳ころから注意が必要です。罹患には人種差もあり、黒人(4人に1人が罹患)や白人(8人に1人が罹患)と比べれば、日本人は前立腺になりにくいということになりますが、食生活の欧米化で日本人もがんに罹患しやすくなってきています。また、家族歴も重要であり、父子や兄弟に前立腺がん経験者がいる場合の罹患リスクは、そうでない場合の2.4~5.6倍というデータもあります。

前立腺がんの場合、医師に指摘されていなかったものの、ほかの病気の治療で切除した組織を検査したことで初めて見つかる「偶発がん」の割合が30%前後を占めています。また、亡くなった後に解剖して初めてがんが確認される「ラテントがん」の割合は死亡時の年齢が上がるほど高くなり、90代では白人が9割、日本人も5割となっています。この方々は生きているときは前立腺がんがあると気付かなかった人です。つまり、前立腺がんに罹患していても、まったく治療をしないまま一生を終える人がたくさんいらっしゃるのです。

つまり、前立腺がんは治療しなくてもよいケースもあるということになりますが、大事なのはその見極めです。その方法のひとつに組織学的分類(グリーソン分類)があります。前立腺の組織を針などで取り、顕微鏡で調べる検査です。前立腺はいろいろなものを分泌する細い管の集合体で、輪切りをすると丸いものの集まりになりますが、がんが悪くなると丸い形状が崩れていきます。こうしたがん細胞の顔つきを悪性度によって5種類に分けるのがグリーソン分類で、数字が大きくなるにがん細胞の悪性度が高くなります。もっとも多いがん細胞の数字と次に多いがん細胞の数字を足すことで、グリーソンスコアを出します。一番多いのが5で次に多いのが4であればグリーソンスコアは9となります。このグリーソンスコアが高いほどがんは進行しており、生存率は低くなります。


前立腺がんの治療方針は、このグリーソンスコア、血液検査による腫瘍マーカーPSAの数値、直腸診の3つの因子から、高リスク、中リスク、低リスクに分けて決めています。低リスクの場合は、まったく治療をしないということもあります。

中リスク、高リスクの場合は治療が必要になりますが、前立腺がんは治療がよく効くがんであり、治療法がたくさんあります。前立腺がんと診断された人の5年後の生存率は97.5%で、ほかのがんに比べ非常に高くなっています。

転移した場合の生存率についても、ほかのがんと比較すると高く、限局がんでは5年相対生存率がほぼ100%、遠隔転移がある場合でも30%から50%です。前立腺がんは長いつきあいになるがんといえるでしょう。

前立腺がんの転移について

前立腺がんの転移部位で多いのは、前立腺の周囲のリンパ節や腰椎、脊髄、骨盤などの骨です。肝臓や肺への転移はあまり多くありません。

転移が見つかった前立腺がんの6割から7割に見られるのが骨転移です。前立腺がん治療の基本となるホルモン療法の効果がなくなった去勢抵抗性前立腺がんではその頻度は8割以上とされます。
骨転移のメカニズムは、前立腺にできたがんの細胞の一部が剥がれて、血管内に入り、血液の流れにのって骨に移動、すみやすいところをさがしてがん細胞が巣をつくり、そこで分裂して増殖していくというものです。骨への転移には溶骨型転移と造骨型転移がありますが、前立腺がんは後者で、骨の新陳代謝のバランスが崩れ、骨がもろくなってしまいます。

*講演前に実施したアンサーパッドによる参加者アンケート(投票92名)より

骨転移の症状

骨転移の症状には、痛みやしびれ、麻痺、骨折、そして血中のカルシウムが増えることによる吐き気などがあります。初期はちょっとした違和感、いつもと違うなあといった症状ですが、進行すると痛みやしびれ、麻痺が起こってきます。こうした痛みやしびれは本人以外にわかりません。去勢抵抗性前立腺がんの場合などはPSAの数値が一桁でも転移している場合もあり、異常を感じたときには医師にすぐに伝えることが肝要です。しびれや麻痺は、脊椎にある椎体の中を走っている神経を腫瘍が圧迫することによって起こります。

手足がしびれる、力が入らない、下半身がしびれて踏ん張りがきかないというときは特に危険な状態なので、早めに受診してください。麻痺が発生して2日以上たつと回復できない可能性があります。逆に言えば2日以内であれば、放射線をあてたり、場合によっては手術をしたりして、症状を抑えることができる可能性があるということです。ここでも主治医に伝えることが大事になります。

骨転移の症状としての骨折は、大抵は上から下につぶれるような脊椎の圧迫骨折です。大腿骨の場合ではボキッと根っこで折れる場合もあり、もともと元気だったかたもこの骨折を機にとても弱々しくなってしまうケースもありました。

骨転移そのものだけでなく、ホルモン療法も骨をもろくする原因になっており、ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法)で1年に2%から5%骨密度が減ることがわかっています。そこで骨折を防ぐために、定期的な骨密度測定をすること、無理のない運動をすること、カルシウム摂取をお勧めします。カルシウムは取りすぎもよくありませんが、なるべく食品から取るようにします。意外に多いのがトイレやお風呂など自宅での骨折です。転倒を防ぐためにもご家族の方も室内の整理整頓を心がけてください。

骨転移の検査と治療

骨転移では、腫瘍マーカーのPSAや骨代謝マーカーのALPが一般的に診断に使われています。画像検査では骨シンチグラフィーが一般的で、放射性同位元素(ラジオアイソトープ:RI)を注射して、撮影する方法があります。この薬は骨の転移の部位に集積しますから、画像には黒く写し出されます。

骨転移の治療は、基本的にはホルモン療法になりますが、骨密度が低下しやすくなるので、骨密度測定を定期的に行い、運動やカルシウム摂取を心がけてください。その後も骨転移に対する薬物治療もありますし、痛みを抑えるための鎮痛薬や放射線治療、さらに整形外科的処置、場合によっては手術といろいろな治療法があります。

薬物療法についてはホルモン療法、抗がん剤を使う化学療法、そしてこの後西山先生から話があると思いますが、放射性医薬品というものがあります。また、骨を強くするという意味で骨修飾薬、破骨細胞という骨を溶かす細胞を殺す薬、骨折の予防のために骨を補強したり、手術をしたりという整形外科治療も考えられます。

痛みに対しては、WHOで定められている鎮痛薬の使い方に沿って処方しています。一般的には非オピオイド鎮痛薬が第1段階であり、その後第2段階、第3段階ではオピオイドという医療用の麻薬を使います。

さらに薬でも痛みが取れなければ放射線治療という選択もあります。放射線ががん細胞のDNAを断ち切ることでがん細胞死につながり、それによって痛みを抑える効果があることがわかっています。外から放射線をあてる方法と、注射薬で内側から放射線を出す薬を投与する方法があります。

骨転移の治療で大事なのは、できるだけ早い段階から適切な治療を始めることです。そのためにも、患者さんから積極的に「こういう状況なんだ」と教えていただきたいと思いますし、それによって私たち医師も「あぁそうなのか」と気づくことができます。ですからあまり遠慮せず、躊躇せず主治医の方とよく話をしてこれからの診療を進めていただければと思います。

【講演2】

転移の早期発見・治療のために放射線でできること

西山 典明先生
北海道がんセンター 放射線治療部長

がんに対する放射線検査について

放射線は、空間や物質中を電磁波や粒子でエネルギーを伝播するものの総称です。あらゆるものから出ていて、この会場にも満ちているわけですが、人体に影響を及ぼすほど多くはないので問題になりません。放射線の単位には次のようなものがあります。

医療分野において放射線は画像診断と治療の両方で使われています。画像診断では体の調べたいところに放射線を照射し、通り抜けて出てきた放射線を検出することで臓器や病気の状態を調べます。一方、放射線治療というのは私の専門分野であり、放射線をあててがん細胞を死滅させるのが目的となります。問題はこのときにがん細胞だけでなく正常細胞にもダメージを与えてしまうことであり、その兼ね合いが重要であり、経験則にもかなり依存します。

前立腺がんの骨転移で行われる画像検査には骨シンチグラフィーやPET、MRIがあります。骨シンチグラフィーは、放射性同位元素(ラジオアイソトープ:RI)を用いたもので、午前中に注射をし、午後にガンマカメラというもので撮像します。骨転移の部位に薬剤が集まり、黒く写し出されます。ただし、炎症のあるところや過去に骨折して骨の密度が高くなっているところにも薬剤が集まりますから、骨シンチに所見があったからといって必ずしも転移とはいえません。

PETはおとなしいタイプの前立腺がんではなかなか薬が集まらず、前立腺がんの早期診断には使いにくいのですが、ある程度進行した去勢抵抗性前立腺がんのような悪性度の高い場合には検出できるので、実施することがあります。

MRIは放射線ではなく磁気を使った検査です。磁気を使っていろいろな信号を取り出すことができ、CTでは判断しきれないものを画像診断するときにも使われます。

前立腺がんに対する放射線治療について

放射線治療は、がんが局所に留まっているときに治す目的で行うものと、全身的に転移している場合に、症状を和らげる目的に行うものがあります。症状を和らげる目的では線量をそれほどたくさんかけません。副作用をできるだけ出さない程度にして治療をします。骨に転移したがんによる痛みを和らげたり、神経を圧迫してしびれや痛みの原因となっているがんを治療したりするときにも使います。この場合は痛みをとるだけでなく腫瘍をある程度小さくしていくことが必要になります。

放射線治療は大きく外照射と組織内照射にわかれます。外照射は電子線のような粒子線や、エックス線やガンマ線といった光子線に分けることができます。組織内照射には低線量率密封小線源治療や、高線量率組織内照射があります。また、非密封の放射性同位元素を用いる治療もあります。

骨転移の痛みに対する外照射は、部位が限定されている場合に有効です。神経症状がある程度あり、痛みの原因がどこかはっきりわかっている場合にそこに対して放射線をあてます。病的骨折や脊髄圧迫を伴わない骨転移の痛みに対する外照射では、59~73%の症例で緩和し、23~34%の症例で消失、つまり痛み止めがいらなくなるという結果となっています。

がんが脊椎転移して脊髄を圧迫している場合には放射線の緊急照射を要します。脊髄が圧迫されると手足の麻痺症状や膀胱直腸障害などが起きますが、その前段階には実は痛みがあることが多く、いきなりそうした症状が出ることはあまりありません。その前段階で治療できるのがいいのですが、麻痺などが出てからとなるとステロイドの投与を即座に開始し、それからすぐに放射線をあてるか、あるいは手術でその圧迫しているところを取り除きます。

かつて放射線治療といえば、透視や単純写真で骨構造を見て場所を決めていましたが、今はCTやMRI、PETなどの画像を用いることでがんと周辺組織を立体的に再現し、いろんな方向からあてることができるようになりました。専用コンビューターによる最適化計算を用いたIMRT(強度変調放射線治療)はどの地域でも受けられるようになってきましたし、その進化系であるVMAT(連続回転強度変調治療)やSIB-IMRT(標的体積内同時ブースとIMRT)も出てきて治療の可能性が広がっています。また補助技術の話になりますが、IGRT(画像誘導放射線治療)という補助技術を用いることで、正常組織への照射を避けながらがん病巣への放射線集中性を高めることもできるようになっています。

組織内照射のうち放射性同位元素(ラジオアイソトープ:RI)は、前立腺がんの骨転移に対し、骨に集積しやすい性質のRIや、RIを組み込んだ薬剤を注射などで体内に投与し、体の中からアルファ線をあてて治療する方法になります。

放射線療法を受ける場合は、その目的や方法、効果などを医師によく聞いておくことが大事です。次のようなリストを活用してみるのもいいでしょう。

【講演3】

治療と向き合う上で大切なこと ~骨転移を体験して~

川﨑 陽二さん
前立腺がん骨転移経験者

元介護福祉士として講演を行ってきましたが、実は9月1日に再就職して介護福祉士として復活しました。きょうは私なりに治療に向き合うことで大切にしてきたことや骨転移についてお話しいたします。

前立腺がんを告知されたのは6年7カ月前です。治療前のPSAは700ng/mlで、グリソンスコアは5+5=10でした。こうした数値を見ていただければ、私がどのような状態であったかはわかっていただけるのではないでしょうか。

すでに骨転移をしていたのですが、それ以前に前立腺がんであることをすぐに受け止めることができず、パニックになり現実を受け入れられなかった段階がありました。それを乗り越えて今があります。

現在はホルモン治療と化学療法(抗がん剤治療)を継続中です。抗がん剤については、以前使っていたものが今年の8月頃に効かなくなり、違う薬に変えました。骨転移では薬の副作用で顎骨壊死が起こりやすいことから、4週間ごとに口腔外科に通い口腔管理も行っています。

前立腺がんを告知されるかなり前から腰痛や肩こりがありましたが、まさかそれが骨転移の症状だとは思いもしていませんでした。介護福祉士といえば腰痛がつきものだし、むしろそれはプロのひとつの勲章だと勘違いしていたのです。

骨転移では全身を針で刺されるような痛みも経験し、放射線治療や緩和治療を受けるようになりました。副作用に悩んだ時期もありましたが、そうした治療も今となっては受けてよかったと思っています。

これは6年7カ月前の骨シンチの画像とその4年後の画像ですが、治療により非常に改善していることがわかります。

ただ、骨転移の第二の疾患というか、椎間板ヘルニア、そこからの脊柱管狭窄症に悩まされるようになり、いろいろな鎮痛剤を使ったり、ペインクリニックに通ったりもしましたが、痛みがなかなか治まらず、昨年12月と今年6月に整形外科で脊椎の除圧手術を受けました。

告知を受けてからこれまでの痛みと生活の質(QOL)を表にしてみました。薄い緑がQOLです。痛みが最高のときはQOLが最低でしたが、その後放射線療法を受けて逆転。2015年あたりまでは仕事にも復活していました。しかし骨転移を甘くみていたのがよくなかったのでしょう。小さな症状もあったはずですが、それを無視して仕事を続けていたら狭窄症と診断されブロック注射をし、除圧手術を受けることになりました。なお今年6月の除圧手術は内視鏡を使った最新の手術です。

前立腺がんになってからというもの、苦しかったこと、辛かったことはたくさんあります。骨転移の痛みで夜も1週間眠れなかった経験もありました。冒頭にお話ししたとおり、この9月に再就職しましたが、それまでの2年は脊柱管狭窄症もあって仕事を辞めざるを得ない状況でした。今もそうですが思うように歩けない状態なのですが、この病気は話さないとなかなか理解されないのも辛かったです。

こうした経験から自分なりに大切だと思うのは、小さな症状でも訴えるということです。また、私のように「これは職業的なもの」といった勝手な自己判断はしないでください。生活の質を保つことも心がけています。生活の質を落とすと治療に対して前向きになれません。私もこれから先どうなるかわかりません。転倒したら骨折、というのもみなさんよりリスクが大きいのでそこも注意をしなければなりません。

最後になりますが、どんな名医でも骨に対する痛みはわかりません。小さな痛みでもそれを主治医に訴えることが大切で、その訴えによって最適な治療を先生が施してくれると思っています。

* 患者さん個人のご経験をお話しいただきました。すべての患者さんが同様の経過を示すわけではありません。

【Q&Aディスカッション】

パネリスト:永森 聡先生(北海道がんセンター 副院長) 丸山 覚先生
西山 典明先生 川﨑 陽二さん
司会:武内 務さん(NPO法人腺友倶楽部 理事長)

質問:手術後のPSAが0.4で主治医から1から2になったらホルモン療法を開始すると言われています。この場合、放射線治療の適用にならないのでしょうか。

丸山先生:手術をすると高かったPSAがほとんどゼロになります。その後3カ月ごとくらいでPSAを測っていきますが、再発した場合は少し上がってきます。その場合の再発の世界的な基準はPSA 0.2であり、0.2になったら治療を考えましょうということになります。最近の流れでは放射線療法あるいはホルモン療法であり、放射線のほうが多く選ばれています。0.2を超えてもまたちょっと下がる場合もあるので、しばらく様子を見て大体0.4になった時点で放射線をかけることを推奨しています。最近の研究では早い段階で放射線をかけたほうがよい結果が得られるということもわかってきています。

質問:口腔外科にかかっている理由は。

川﨑さん:当初は主治医の勧めです。骨転移をしているのでその治療の副作用として顎骨壊死になる可能性があり、それに備えて口腔管理をしなければならないということと、やはりさまざまな副作用で口内炎ができることもあり、普通の歯科医ではなく口腔外科に行きました。

永森先生:骨転移がある場合、その治療で使用する骨吸収抑制剤には副作用として顎骨壊死があります。そこで治療される前に口腔外科に行かれたということだと思います。当院でも前方、後方で歯科医や口腔外科で診てもらうことを勧めています。

質問:全摘後PSAが上がってきたらどういうタイミングで検査をすればいいのでしょうか。術後1年8ヵ月がたちましたがPSAの検査しかしていません。骨シンチはしなくてもいいのでしょうか。

丸山先生:転移がなく、手術を受け、薬を使っていないという状況では、PSAは非常に頼りになる指標となり、骨シンチグラフィーやCT検査はあまりやらないのが一般的です。ただし、そのPSAが上がってきたら、転移があるかどうかを確認することが必要で、骨シンチやCTが必要になってきます。術後1年8カ月そうした検査をしていないということはPSAの数値が高くないということだと思います。

質問:全摘手術後PSAが上昇し、現在はホルモン療法を行っています。副作用もあり日常生活が辛いのですが、手術後根治を目指し放射線療法を受けるという考え方はあるのでしょうか。

西山先生:去勢抵抗性になってからでは厳しいので、ホルモン療法が効いているうちに放射線治療を受けることを考えている方はいらっしゃいます。PSAが上がっている状態ということですから、画像診断を加えて行い、ほかに転移がないことを確認して、前立腺のあるところ(あったところ)に放射線治療を行うことはあります。そこにしかないのであれば根治を目的にした治療として成り立ちますが、遠隔転移があるかどうかの見極めは難しいところがありますから、ホルモン療法をやめてみないと治ったかどうかはわからないということになります。

質問:前立腺がんステージ4でホルモン療法を行っています。現在PSAは安定していますが、さらに睾丸切除をする必要はあるのでしょうか。精巣を摘出した場合、ホルモン療法はいずれ耐性ができるといわれていますが、精巣を摘出した場合でも同様なのでしょうか。

丸山先生:ホルモン療法は体の中にある男性ホルモンの量を血中で低下させます。標準治療は3カ月ごとに1回お腹もしくは腕に注射する薬になりますが、そのメカニズムは下垂体に作用し、精巣から産生される男性ホルモンをなくすというものです。ですので、今現在ホルモン療法で男性ホルモンが減っているのであれば、精巣を取ったところで変わりません。お金をかけたくない、あるいは持続的に病院に通うのが嫌という場合には、注射をやめて精巣を取るという選択もあり得るとは思います。

質問:前立腺がんになって食事に気をつけていることはありますか。治療に効果がある食べ物はありますか。

川﨑さん:私は大の肉好きだったのですが、がん宣告後やはり摂取量というか食べ物の量が減り、油ものが自然と少なくなりました。今は家内の勧めもあり野菜中心。肉も魚も食べますが量的に減りました。好きなものは好きなだけといった感じです。

永森先生:食事について「自由にしてください」というのが原則ですが、一般的にイソフラボンは女性ホルモン様の作用があるといわれています。それがいい方向に働くかどうかエビデンスはありませんが、悪さはしないといえるでしょう。「がんに効く」などと売られている高価なキノコがありますが、そうしたキノコには男性ホルモン様の作用があるものがあるといわれており、やめたほうがいいでしょう。

質問:Q&Aディスカッションの最後に、本日の座長の永森先生から一言お願いできますか。

永森先生:私は泌尿科医ですが、立場上いろんながんセミナーの司会をすることがあります。きょうのこの場にはそぐわないかもしれませんが、北海道はがん検診の受診率がとても低いことが気になります。また喫煙率も高い。どのがんも喫煙に関係もありますし、検診を受けていないことによって治療のスタートラインから不利になってしまっている人が多いというのが北海道の特徴です。幸い前立腺がんの治療薬は私たちが医者になったころに比べるとどんどん新しいお薬がでてきて、20年前だったら薬もなく注射で男性ホルモンのレベルを下げるような治療しかできませんでしたが、今はいろいろな経口剤や注射剤がでてきていますので、5年生存率もかなり改善しています。いったん転移するとどのがんも根治、完治というのはなかなか難しいのですが、前立腺がんに関しては、がんと長く共存できるといえるでしょう。前立腺がんというのは主に骨に転移します。骨というのは体を支えていますが、肺とか肝臓といった臓器のように命そのものを支えている部位ではありません。骨の転移はQOLを下げてしまうことはあっても、放射線をあてたり薬を飲むことである程度は治療していけます。あきらめず、川﨑さんのように、がんと共存していく気持ちで前向きに治療していただきたいと思います。
MAC-XOF-JP-0073-22-08

開催日 2018年9月29日(土)
開催時間 14:00~16:40 (開場13:30~)
場所 札幌市教育文化会館305
参加費 無料
共催 認定NPO法人キャンサーネットジャパン NPO法人腺友倶楽部 バイエル薬品株式会社