NPO法人キャンサーネットジャパンの発足
1991年6月、当法人の創始者:南雲 吉則(元代表・元顧問、2011年度退任)、吉田 和彦(元理事・元理事長、2011年度退任)が、米国国立衛生研究所発行の乳がん患者向けパンフレットを翻訳自費出版し無料配布を開始したのが当団体の始まりです。当時は、インフォームド・コンセント、セカンド・オピニオンという言葉すら一般的でなかった日本において、がん(乳がん)患者自らが、科学的根拠に基づく、正確な知識・情報を得られる書籍はなく、先駆的活動として注目されました。
1992年には、それら10冊の冊子をまとめた書籍「あなたと乳がん」を出版し、全国に無償配布しました。その後、「乳がんの発見」(祥伝社刊)などの書籍を出版・販売開始し、それらの出版の収益をもとに、米国国立がん研究所が提供するNCI PDQ日本語訳のファックスでの提供(キャンサーファックス:現在終了)、電話・ファックス・メイルでのボランティア医療者によるがん医療相談(セカンドオピニオンコール:現在終了)、インターネット上におけるNCI PDQの公開など新たな活動も開始しました。また、2000年には、現在の主要事業の一つである患者・一般市民を対象とした「EBMセミナー(現在はCNJがん医療セミナー)」を開始しました。
2001年7月17日に東京都よりNPO(特定非営利活動法人)として認証を取得、2001年8月23日に法人として登記しました。
精力的に活動をし、翌2002年にはNPO法人キャンサーネットジャパン(以下、CNJ)のホームページが日経インターネットアワードを受賞するに至りました。
また、活動開始25周年となる2016年8月22日、認定NPO法人として認定されました。
新生CNJの活動をスタート
2006年8月、がん対策基本法の成立に重要な役割を果たした故:山本 孝史さん(当時の民主党参議院議員)の申し出により2006年11月25日「最善の抗がん剤治療を受けたい!!」とのテーマでシンポジウムを開催しましました。CNJはこのシンポジウムをきっかけに、その存在意義と役割を再認識し、新たな陣容のもと活動を開始しました。
2007年1月、当時の日本におけるがん医療環境の変化を鑑み、発足当初の、十分な情報がない中、科学的根拠に基づく正確な情報を発信する事から、今後は、増え続ける情報の中、科学的根拠に基づく正確な情報へ繋げることを、私たちの使命・役割とし、ミッション・ヴィジョンを新たにし、東京御茶ノ水に事務局を開設しました。
2014年に第1回目のAKIBA Cancer Forumを開催、以後毎年8月に日本最大級のがんフォーラム「Japan Cancer Forum」を開催、2019年からは造血器腫瘍に特化した「血液がんフォーラム」を継続して実施しています。
2023年現在は、東京事務局7名、大阪事務局3名、合計10名のスタッフで活動を続けております。
CNJのミッション・ヴィジョン
私たちは、新生CNJの新しいミッション(わたしたちの使命)を「がん患者が本人の意思に基づき、がん治療に臨むことができるよう、患者擁護の立場から、科学的根拠に基づくあらゆる情報発信を行うこと」とし、そのヴィジョン(わたしたちの夢)として、「がん体験者・家族・遺族、その支援者、医療者と共に、日本のがん医療を変え、がんになっても生きがいのある社会を実現すること」としました。
この背景には、がんと診断された患者・家族は、氾濫するがん医療情報の中、医療提供者と受益者の間の情報の非対称性の大きいがん医療において、科学的根拠に基づく、正しい情報にたどり着く事が困難であり、医療提供者と受益者(患者・家族)の間に立ち、受益者擁護の立場から、情報発信する必要性があったからです。更には、医療提供者においても、患者・家族のがん医療に対するニーズを知る機会も少なく、医療提供者に対する情報発信も行うこととし、更には、がんという病気が、日本人において2人に1人が罹患するものの、治療成績も日々改善している事、今や当たり前の病気であることなど、がんを意識しない一般の人々へも啓発していくという役割も含まれています。
このような現状の中、患者・家族、市民は、最善のがん医療、納得したがん医療を受ける事ができないなどの問題、罹患後の様々な精神的な不安といった問題、高騰化する医療費・就労への不安など社会的な問題にも直面し、私たちのミッションに基づく活動が、これらの改善、より良いがん医療の実現、ひいては、がんに罹患しても、生きがいのある社会とする事を私たちのヴィジョンとし活動を続けてまいりました。
CNJのコアメッセージ
がんに対する一般の人への意識、すなわち、これまでのがんに対する様々な啓発活動は「がん撲滅(征圧)」、「がん検診で早期発見・早期治療」というものがほとんどでした。しかし、私たちは、これらの啓発活動やメッセージに、ある種の疑問や違和感を持っていました。
確かに、実現すれば素晴らしい活動・メッセージです。しかし、毎年87万人が、がんに罹患し、37万人の人ががんで亡くなるという現状において、果たして、それだけで良いのかという疑問です。「がん撲滅(征圧)」、「がん検診で早期発見・早期治療」というメッセージが掲げられる一方で「今や日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人が亡くなる当たり前の病気です」というメッセージも知られるようになりました。
「がん撲滅(征圧)」、「がん検診で早期発見・早期治療で、がんは克服できます」というメッセージ、「今や日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人が亡くなる当たり前の病気です」というメッセージ、どうもしっくりこなかったのです。確かに、ある種のがんは、がんの原因と発生が、ほぼ1対1(ヒトパピローマウィルスと子宮頸がん)である事はわかっています。しかし、今のところ、多くのがんで、その発生を高い確率で予防できる方法はなく、また死亡率の減少を目的とした(一般に、早期発見・早期治療はがん検診の目的ではないことはあまり知られていません)がん検診においても、死亡率の減少が科学的に証明されている疾患は、大腸がん、子宮頸がん、乳がんなどで(これらのがん種でさえ検診を受けていてもがんに罹患する人は少なくありません)、その他多くのがんで、検診だけでは不十分であることもわかっています。
これらの事から、確かに、がんが予防でき、がん検診で、死亡率を下げるという事が実現する事は素晴らしい事であることに異論はないものの「今や日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人が亡くなる当たり前の病気です」と「がん撲滅(征圧)」、「がん検診で早期発見・早期治療」というメッセージが、どうしてもリンクしない、すなわち、がんに罹患してしまった多くの人たち、将来2人に1人ががんになる日本において、がんを確実に予防できる方法がなく、がん検診を受けていてもがんに罹患してしまった人たちに対し、CNJが掲げるべきメッセージはこれで良いのだろうかという疑問がありました。
一方で、一般には広く知られていませんが、各種がんの治療法は、その歩みは遅く見えるものの確実に進歩してきています。また、科学的根拠に基づく最良の治療が提供されるよう奮闘する医療者、治療成績の改善に貢献すべく研究・臨床試験に関わる医療者もおり、「今や日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人が亡くなる当たり前の病気です」という現状において、患者・家族・市民の希望は、まさにここにあると、私たちは認識していました。
このような背景より、私たちCNJは“No More Cancer”(がん撲滅・征圧)ではなく、前述した事を知る事で、希望を持ち、また「がんになっても生きがいのある社会を実現」というヴィジョンを表すメッセージとして”Know(≠NO) More Cancer”をコアメッセージにしました※ 。
※正確には、Know More about Cancer.ですが、このメッセージではあえてKnow More Cancerとしています
ミッション・ヴィジョン、コアメッセージを支える理事
CNJのミッション・ヴィジョン、そしてがんになった患者・家族・一般の人に対するコアメッセージを設定したcause(コーズ:動機)は、私たちの組織を構成する人材にあります。
創設者(2011年度退任)南雲 吉則は、CNJ設立当初の1990年代「乳がんを治すのだから、乳房を失う事(全摘になる)はしかたない」と多くの患者が言われる中、既に欧米で報告され標準化しつつあった乳房温存術について情熱を傾ける医師として、吉田 和彦(2011年度退任)は、主として乳がん・消化器がんにおいて、日本で声高に叫ばれる程、がん検診は大きく死亡率低下にはつながらないとの海外の報告を認識し、乳がん・消化器がんに罹患した患者への診療にあたっていた医師でした。
現理事長の岩瀬 哲(埼玉医科大学病院 総合診療内科)は、妹を若くして白血病で失い、また日常診療においては、終末期を含む、がん治療によって生じるあらゆる不快な症状を軽減する緩和ケア医療に従事する医師です。
2010年より理事に就任した小西 敏郎(東京医療保健大学 副学長・医療栄養学科長)は、長年、がん医療(特に消化器がん)の治療医として情熱を傾ける一方、自身も胃がん・前立腺がんのがん体験者の立場から、CNJの理事として活動を支えています。
2011年7月より理事に就任した後藤 悌は、国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科において、専門の肺がん治療の他に、がん患者が直面するインターネット上におけるがん医療情報の研究にもあたる医師です。
このような理事によりCNJのミッション・ヴィジョン、そしてコアメッセージが掲げられています。
*理事メンバーについては、理事の紹介ページをご覧ください。
CNJ事務局を支えるスタッフ・ボランティア
CNJのミッション・ヴィジョン、そしてコアメッセージを実現するため、そしてNPO法人、CNJの活動を支えるためには、理事だけではなく、各種活動を実現するための事務局機能、すなわちこれらの活動を遂行する事務局スタッフの存在は不可欠です。
前述したCNJのミッション・ヴィジョン・コアメッセージからもわかる通り、がん医療を俯瞰的に捉え、偏った視点からのみの活動では不十分な事から、CNJでは、様々な立場、職務経験を有するスタッフが活動に従事しています。患者の立場、家族の立場、遺族の立場、一市民の立場、そして一般企業での勤務経験、医療者としての勤務経験など、CNJの活動は、このような多様な経験と能力を持つ人材(スタッフ・ボランティア)により支えられています。
CNJの活動を支援頂く信頼すべき医療者
CNJの活動は、理事・事務局スタッフの他に、外部評価委員(アドバイザリーボードメンバー)や、現在もがん医療の現場に関わる医療者の理解、支援、協力なくして語れません。ミッションに「科学的根拠に基づくがん医療」といったフレーズを掲げる以上、がん医療の領域において重要な役割を担う医療者の参画は不可欠であると考えています。
外部評価委員(アドバイザリーボードメンバー)の委員長として、日本のがん薬物療法の黎明期からその第一人者として世界的にも大きな役割を果たした西條 長宏先生(日本臨床腫瘍学会 事務局特別顧問)を擁し、各疾患領域を代表する医療者100名に、外部評価委員をお願いし、CNJの活動を評価頂き、また活動自体にも協力頂いています。
*アドバイザリーボードメンバーについては、外部評価委員会のページをご覧ください。