NPO法人キャンサーネットジャパン > FAQs > 血液がん > Q105:海外では移植半年からコロナワクチン接種を推奨していると聞いたこともありますが、日本ではどうなのでしょうか。
40代・成人T細胞白血病・福岡県

Q.105

Q.104で質問をした者です。 かかりつけ医にワクチン接種を相談したところ会議にかけて頂き、総意として慢性GVHDの悪化の可能性があるとして接種延期を勧められました。 アメリカなどでは移植半年からコロナワクチン接種を推奨していると聞いたこともありますが、日本では慎重論の方が多いのでしょうか? 各県や、公立病院と民間病院との実績データのようなものがあればご教授いただきたく存じます。

(患者・40代・成人T細胞白血病・福岡県)

A.

COVID-19ワクチンの接種自体が「人類初」の試みで、まして造血幹細胞 移植患者への接種となると、確立された方針はまだありません。

地域性や病院間の違いというのは特になく、各施設とも患者さん毎に リスクとベネフィットをよく考えた上で、最後は本人に決めていただいていると思います。あくまで一般的にはワクチン接種を勧めるケースが多いと思われますが、 今回はちょっと注意すべき点があり、以下長くなりますが説明します。

ワクチン接種のベネフィットは、先日回答した通りです。 COVID-19への中和抗体ができて感染や重症化を抑制できる可能性があることですが、100%抑制できるとは限らず、一般の方に比べるとやや低い確率になります。

一方リスクについてです。 造血幹細胞移植患者さんでは、熱発や倦怠感といった一般的な副反応とは 別に考慮されることがあります。 ワクチンは一般に免疫システムに作用するので、造血幹細胞移植患者の状態に影響する可能性がありますが、よい方向に作用するのか悪い方向に作用するか、まだ分かりません。 これは母数が少ないことと各患者さんの状態が違うことに基づくもので、 まとまったデータは今後すぐには出てこないと見込まれます。

造血幹細胞移植後患者に対するCOVID-19ワクチン接種後にGVHDが発症ないし増悪した例があるという報告が、少数ですがあります。 海外からの報告になりますが、GVHDのない患者さんでは10%未満、 もともとGVHDがあった患者さんでは約4分の1でワクチン接種後にGVHDが 増悪したと報告されています。 これらの確率をどう受け取るかは難しいところですが、活動性のGVHDを 有する患者さんではGVHDが増悪する危険性があることになります。

これらを勘案してもやはり、ワクチンのベネフィットを優先してワクチン 接種を勧めるケースが一般的です。

ただ今回気になるのは、移植に至った原疾患がATLであることです。 ご承知の通りATLは厄介な病気で、GVHDとドナーさんの血球がATLを抑える力という「免疫」の働きが大切と思われています。 ワクチン接種でこのバランスが崩れる可能性があり、主治医の先生はそこを懸念されているのだと思います。 例えばGVHDが悪くなって、免疫抑制剤を増やすことになる可能性があります。 それですぐに治まればよいですが、その後にATLが再発する危険もあり得ます。

あくまで可能性の話になりますが、それぞれのリスクがどの程度あるかは、 移植前の状態や現在のGVHDを知らないと判断できません。 すなわちこの辺は、実際に診療にあたっている主治医の先生の判断がもっとも尊重されるべきです。

一方でCOVID-19に暴露・感染する危険性は、現在おられる環境や活動性によってずいぶん異なると思います。 すなわち感染する危険の高い環境にいるのならワクチンのベネフィットを 優先してワクチンを受ける、そうでもないのならGVHDが悪くなるリスクを優先して接種を延期する、という考え方もあります。

いずれにしても、ワクチンによって得られるベネフィットとリスクを秤にかけて、主治医の先生ともよく相談・納得した上で、最後はご自身で決めていただくのがよいと思われます。

2022.2.22