オルガズムの変化
婦人科がんの治療の影響
女性の性欲やオルガズムは、卵巣から産生されるテストステロンの影響を受けます。そのため、がんの治療によって卵巣を摘出したり、抗がん薬治療や加齢によって閉経し卵巣機能が低下したりすると、性欲が低下しオルガズムが得られにくくなる傾向があります。婦人科がんで卵巣が温存された場合でも、子宮を切除すると手術後のセックスに不快感を覚えるなど、心理的なダメージから性欲が低下するという報告もあります。
外陰部や腟壁を切除したときでも、多くの場合は、パートナーとのセックスは可能です。ただ、手術で切除した範囲によっては、ペニスの挿入が困難になったり性交時に痛みを感じたり、オルガズムが得られにくくなります。また、薬物療法の副作用や病気の進行による倦怠感や不安感が強いときには、性生活を楽しむ気になれないこともあるでしょう。
乳がん治療の影響
九州がんセンター乳腺科の外来の受診患者のうち、手術前に性生活があり術後1年以上経過している85人を対象に2005年に実施された調査では、86%(73人)が性生活を再開していましたが、14%(12人)は末再開でした。乳がんの治療は、ボディイメージの低下につながったり乳房を触られることに抵抗感があったりするためか、性生活を再開した人も全員に何らかの変化を感じていました。そのうち半数は「以前より性生活への関心が失せた」と回答し、「服を脱ぐことに抵抗がある」「以前ほど性的快感が得られない」「胸部を圧迫されると苦痛」という人も少なくありませんでした。乳房再建術をうけても、乳房やニップルの感覚が元のようには戻らないこともあります。治療から時間が経てば改善する可能性はありますが、乳がんの治療もオルガズムを変化させ、そのために性生活に消極的になってしまう女性がいることを示しています。
前立腺がんと男性の膀胱がん治療の影響
前立腺がんの根治的前立腺全摘術は、膀胱と前立腺、前立腺と尿道を切り離して前立腺を全て除去し、膀胱と尿道をつなぎ合わせる手術法です。この手術を受けた場合でも、勃起神経が温存されれば勃起が可能になる可能性あります。ただし、勃起神経が温存されても、勃起能の回復率は術後5年で34%だったとの報告もあり、回復しないことが実は少なくないことは知っておきましょう。根治的前立腺全摘術では射精管を切除するため、術後は射精障害が生じます。射精はできなくてもオルガズムは残る場合があります。
男性の場合、膀胱がんの膀胱全摘術でも、前立腺を摘出するため、前立腺がんの手術と同様、勃起障害や射精障害が生じ、オルガズムが得られにくくなります。
精巣がん・男性の直腸がんの手術の影響
精巣を摘出しても片側だけであれば、一般的には血中テストステロン値はある程度保たれるため、勃起障害やオルガズムの変化が起こる確率はそれほど高くありません。ただ、残った精巣が精巣上体炎の治療などによって萎縮していると、テストステロンの分泌量が低下し勃起障害や性欲低下を引き起こすことがあります。
また、精巣がんや直腸がんの治療のために、腹部傍大動脈リンパ節、大動静脈間リンパ節を切除し、大動脈周囲の交感神経が障害された場合には、射精障害やオルガズムが得られないオルガズム障害が生じやすくなります。
参考資料
・日本性科学会編『性機能不全のカウセリングから治療まで セックス・セラピー入門』(金原出版)
・Psychooncology. 2008 Sep;17(9):901-7.