新しいセックスライフを手に入れる

病気を性生活について見直すきっかけととらえる方法も

がんの治療は、ボディイメージの変化、オルガズムや性機能の変化など、性生活にさまざまな影響を及ぼします。しかし、考え方によっては、病気の治療という人生の大きなイベントは、パートナーとの関係や性生活を見直すきっかけになります。なかなか話題にしにくいテーマではありますが、性交痛や性機能障害についても、がんの治療による副作用や後遺症ととらえれば、専門家にも相談しやすいかもしれません。カップルの関係性にもよりますが、性生活を再開するときには、パートナーと、「本当は前から痛かった」「実はこうしてほしいと思っていた」「手術のキズを見られるのが嫌だ」などと、お互いの気持ちを確認し合ってみるとよいのではないでしょうか。性生活についてコミュニケーションを取ることはカップルの絆を深めることにもつながります。

がんの治療によって体と心に何らかの変化があった後のセックスは、がんのサバイバーにとってもパートナーにとっても未知の領域であり、新しいセックスライフを手に入れるつもりで、性生活を再開するとよいのかもしれません。そのための方法の一例として参考になりそうなのが、女性のオルガズム障害に対して行われる心理療法です。

スキンシップの心地よさを知るタッチング

まず重要なのは、セックスは2人で楽しむものだという認識を持つことです。「性欲とオルガズム~女性編~」 で触れたように、女性の場合、クリストスへの愛撫や全身の皮膚への刺激に時間をかけないとオルガズムに達しにくい傾向があります。男性側が、自分が快感を得られればそれでいいと考えていたり、女性側が、自分が楽しむのは二の次と考えたりしているのなら、どちらも考え方を見直す必要がありそうです。

また、身体的コミュニケーションを取るために有効とされるのが、お互いの体を触ってみる「タッチング」です。2人共裸になるか裸に近い状態で一方がうつ伏せになり、そのパートナーが手足から体の中心へ向かってゆっくり時間をかけて優しく触ります。次に仰向けになって、同じように体の末端からゆっくり触ります。片方が終わったら、役割を交代して、同じように体をゆっくり障ってみます。体の状態でうつ伏せや仰向けになるのがきつい場合には横向きになったり、相手に裸を見られたくないのであればTシャツなどを着たり部屋を薄暗くしたりして、リラックスできるようにしてもよいでしょう。

タッチングでは、最初は、性器は触らず性的な感覚は求めずに、全身の皮膚をゆっくり触るようにし、触られる方は自分の体がどんな感じがするのかに気持ちを集中するのがポイントです。触る方は、触り心地を味合うことに集中します。タッチングの目的は、羞恥心やセックスへの罪悪感を払拭し、体を触れ合うスキンシップの心地よさを体験することです。だからといって性的な快感を得ようとか、相手に快感を与えようとする必要はありません。性器を触ることが禁止されているのは、性交で快感を得なければという強迫観念から逃れてスキンシップを楽しむためです。タッチングをしているときには、世間話はせず、性交の事も考えずに手と体の感覚に集中しましょう。お互いに触る側と触られる側を体験してから、どう感じたかを伝え合います。

何度か繰り返し、お互いにスキンシップの心地よさが味わえ、性的な感覚が芽生えたら、性器へのタッチングを開始する段階に入ります。このときもオルガズムに導くような強い刺激は加えず、あえてじらすように優しく触れるようにします。このとき、潤滑ゼリーやローションなどを使ってもOKです。男性が治療の影響で性機能障害になってしまった場合でも、タッチングによって心地よい感覚が得られる可能性があります。

セルフ・タッチング

自分の体の状態を受け入れ、体の感覚を知るためには、カップルのそれぞれが、自分の体に触ってみる「セルフ・タッチング」も有効です。マスターベーションという言葉には罪悪感が伴うため、最近では、セルフ・タッチング、セルフプレジャーと呼ぶようになってきています。まずは相手の体に触るタッチングと同じように、性器には触らず、手足の指先から体の中央に向けてやさしく触れていきます。このときオルガズムを得ようとせずに、自分の体を触ったときの感覚に集中します。セルフ・タッチングでは、性的な興奮を得ようとするのではなく、ゆっくりとスキンシップを味わい、リラックスできるようになることを目指します。手術などによってボディイメージが変わってしまった場合には、やさしく自分の体をタッチングしていくことで、自分の体の変化を受け入れられるようになる可能性もあります。

第2段階では、性器に触ってもよいのですが、このときにも、オルガズムを目指さずに、ただやさしく少しずつタッチします。どこをどのように触れると心地よいと感じるかが分かったら、それをパートナーに伝えてみてもよいでしょう。口で伝えるのが恥ずかしいようなら、セックスの際に、相手の手を心地よい場所へ移動させてもよいかもしれません。どの部分に触れてほしくないのか、どこに痛みを感じるのか、何をしてほしくないのかを伝えることも大切です。

参考資料

・日本性科学会編集「性機能不全のカウセリングから治療まで セックス・セラピー入門」(金原出版)