男性の更年期障害・性腺機能低下症

男性の更年期障害と性腺機能低下症

更年期障害というと、女性特有のものと思っている人もいるかもしれませんが、男性でも性ホルモンのテストステロンの低下によって、心身にさまざまな不調が生じます。一般的には、「男性更年期障害」と呼ばれますが、医学的には、加齢男性性腺機能低下症(LOH(ロー/Late-Onset Hypogonadism)症候群)という病名がついています。

女性の更年期症状は、閉経前後の約10年間に起こるのに対し、男性の更年期障害は必ずしも時期が一定ではないのが特徴です。テストステロンは20代をピークに、徐々に分泌量が低下するものの、女性のエストロゲンのように急激には低下しないからです。そのため、起こる時期には個人差があり、40歳以降のどの年代でも更年期障害になるリスクがあります。

テストステロンは、筋肉や骨の量を増やし、毛髪・皮膚の育成、血液を作る、動脈硬化予防、性欲や性機能の維持、記憶力や認知力の向上、意欲の維持などに関わっています。そのため、何らかの要因で急にテストステロンが不足すると、さまざまな不調が生じます。また、前立腺がん、精巣腫瘍などで精巣を両方切除したり、ホルモン療法によってテストステロンの分泌が抑えられたりすると、更年期障害のような症状が出ることが少なくありません。

男性更年期障害の症状

男性更年期障害、性腺機能低下症の症状は大きく次の3つに分けられます。
① 落胆、抑うつ、いら立ち、不安、疲労感などの精神・心理症状
② 関節・筋肉関連症状、骨粗しょう症、発汗、ほてり、睡眠障害などの身体症状
③ 性欲低下、勃起障害、射精感の減退などの性機能関連症状

テストステロンの分泌量が低下すると、早朝勃起の消失、性欲低下、活力の低下、肥満、抑うつ、睡眠障害が生じ、最終的に勃起障害が生じるとされます。病気への不安、退職、異動、降格、仕事で認めてもらえないなどのストレスが、テストステロンを低下させる要因になることもあります。

男性の更年期障害・性腺機能低下症の治療

がん治療や更年期の影響でテストステロン値が基準に満たない場合、あるいは、テストステロン値が低下し抑うつや勃起不全(ED)などの症状がある場合には、テストステロン補充療法(TRT)の導入を検討します。ただし、前立腺がんの治療中か既往歴がある患者のTRTの使用には注意が必要です。TRTができない場合には、症状に応じて、漢方薬などが用いられます。がんの治療のために勃起や射精に関わる神経が障害されてしまうと、勃起や射精ができなくなります。

一方、勃起神経が温存されている場合のEDの治療では、PDE5阻害薬の内服が第一選択です。PDE5阻害薬には、シルデナフィル(商品名バイアグラ他)、タダラフィル(商品名シアリス他)の2 種類があり、不妊治療のための勃起不全改善であれば、制限はあるものの保険適用になっています。ただし、それ以外の目的のための勃起障害改善に対してのPDE5阻害薬投与は保険診療の対象にはならず、全額自費診療です。PDE5阻害薬投与は、泌尿器科医の診察・指導のうえ、使用することが大切です。突然の視野欠損、突発性難聴などの副作用が起きることもあり、降圧薬などとの併用にも注意が必要です。

PDE5阻害薬以外の治療として、世界的には血管作動薬(プロスタグランジンE1)の陰茎海綿体の注射、疑似的に勃起を起こす陰圧式の勃起補助具を試す方法もあります。他のED治療では効果が得られない場合には、ペニスにシリコンなどで作られたインプラントを入れる陰茎プロステーシス挿入術も選択肢になります。治療法の選択に関しては勃起障害治療を行う医療者との話し合いが重要です

性機能は心理的な影響を受けやすく、気持ちが落ち込んでいたり、「うまくいかないのでは ないか」などという不安感があったりすると、勃起ができなくなったり維持できなくなります。更年期障害で精神症状が強い場合や心因性の勃起障害は、心理的なケアによって改善する場合があります。

参考サイト

日本メンズヘルス医学会「よくある男性の病気」
健康長寿ネット「男性の性腺機能低下症(LOH症候群)