がんの治療中、治療後の妊娠・出産
がんの薬物療法や放射線治療中に妊娠すると胎児に悪影響があるリスクがあるため、基本的に、がんの治療中に性行為をする際には避妊が勧められます。一方で、女性の場合、がんの治療の有無に関わらず、30代半ばくらいから卵巣機能が低下し妊娠しにくくなり、出産に伴うリスクも上がります。がんの治療後、場合によっては治療中に、妊娠・出産を望んでいる場合には、どのタイミングで出産・妊娠を計画していくのがよいのか、がんの担当医に相談しましょう。
乳がんの再発予防のために実施されるホルモン療法、慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬治療など、長期間、がん治療薬を服用する必要があるときには、女性患者の年齢によっては、一定期間治療を中断して妊娠・出産をし、その後、治療を再開する場合もあります。内服薬のがん治療薬を服用していて妊娠・出産を望んでいるときにも、自己判断で薬の服用を中止するのは絶対に避け、担当医に相談するようにすることが大切です。「小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン2017 年版」では、妊孕性温存や妊娠・出産よりも、がん治療を優先することが強調されています。
自然妊娠が難しい場合には、体外受精、顕微授精などの不妊治療を活用する方法があります。体外受精は、卵子と精子を体外で受精させて培養し、胚(受精卵)を子宮内に移植する治療法、顕微授精は男性側の精子が非常に少ない場合に細い針で精子を採取して卵子の中に注入し受精させる方法です。女性が43歳未満で婚姻関係のあるカップル(事実婚も含む)は、2022年4月より保険診療で不妊治療が受けられるようになっています。
がん治療などによってカップルのどちらかの妊孕性が失われた場合には、第3者から精子や卵子の提供を受けて人工授精や体外受精によって妊娠・出産する方法もあります。日本生殖補助医療標準化機構のガイドラインでは、第三者からの精子や卵子などの提供を受けられるのは、それ以外の方法では子どもを持つことができない夫婦に限られます。日本では、第三者からの精子や卵子の提供での妊娠・出産をあっせんしている生殖医療機関は限られます。インターネットやSNS上で斡旋している情報は安全性などに十分注意することが必要です。なお、いわゆる「代理母」と呼ばれる代理懐胎ついては、日本では認められていません。