前立腺がんで勃起障害に これまでとは違う、心安らぐ「愛情の伝え方」

53歳時、前立腺がんに罹患した男性(63歳)に話を聞きました。

「愛情の伝え方を一つ失った」けれど

治療の際、主治医からは、「夫婦生活を極力控えるように」と話がありました。とても簡単に、サラッと言われた印象があります。
治療後は、勃起障害が起こりました。「やっぱりな」と思いながらもショックでしたね。それも、普通のショックではなかった。私から“男性”というものが消されたようで、何とも言えない気持ちでした。正直、妻の前でトライするのは無理。一人で挑戦してみたけれどダメでした。愛情の伝え方を一つ失った気がしています。
がんになったころ、私は精神的に不安定だったし、治療を優先しようという思いもありました。子供が独立しているような年齢でもあり、夫婦生活からは自然に遠のいていきました。

しかし、愛情表現の仕方には、いろいろな変化がありました。一緒に寝ているときのスキンシップが、逆に増えたんです。それで気持ちが落ち着きました。そのほか、買い物のときなどに自然と手を繋ぐようになりました。子育てでバタバタしていた時期は、まったく繋がなくなっていたのに。冗談ぽく「好き」「愛している」などと言うことも増えました。

「家族は、患者とは別の思いがある」

日常生活では、手を繋いだり冗談を言葉にしたりと、いい愛情表現ができるようになったけれど、治療への思いは行き違い、かなりチグハグになっていました。
あるとき、私は治療の副作用でイライラがつのり、妻へぶつけてしまったことがありました。すると妻は、こう返してきました。
「私はがん患者じゃないから、あなたの気持ちはわからない。だけど、あなたも私の気持ちはわからないでしょ」
家族は、患者とは別の思いがある。だから、患者本人が思うのとは違ったかたちで支えると、妻は言いました。ドキッとしましたね。

それ以降も感情のぶつかり合いはあるけれど、以前とはまた違った形になりました。現在は、性や治療への思いも含めて、お互いにふっきれたようになっています。だから、自然体です。妻は、普段は私をがん患者として見ていないですから(笑)。

自分から相談できない人は多い

前立腺がんは高齢者に多いけれど、40代でなる人もいます。若年化してきているため、今後、性の問題で悩む患者さんも増えていくのではと思っています。
特に男性は、自分から言い出せずに抱え込んでしまう人が多い。相談できないまま、性機能障害を回復する機会を失うことがないよう、医療者から語りかける体制が必要だろうと思います。病院で話しやすい雰囲気を作ってもらえるといいですね。

取材/文 木口マリ