直腸がん・肛門がんで勃起障害に 〜「がん」よりもつらかったこと〜
27歳時、直腸がん/肛門がんに罹患した男性(41歳)にお話を聞きました。
手術の前日「これで最後なのかな」
治療で人工肛門を造設したほか、勃起障害と射精障害になりました。人工肛門になることは受け入れていたのですが、「勃起や射精ができなくなるだろう」と聞かされたのは、手術の2日前。「死んでもいいから手術をやめたい」と思いました。
医師からは、将来子供を持てるようにと、精子保存を勧められました。精子を採取するために案内されたのは、そのための個室などではなく、入院中の病院の空いている病室。すでに勃ちづらくなっていたし、翌日に控えた手術への不安や、「これで最後なのかな」という切なさなど、いろいろな感情が渦巻いていました。
当時、性のことを親身に考えてくれる医療者は、ほとんどいませんでした。取った精子をナースステーションに預けるときも「そこに置いといて」といった対応。さらにヘコみましたね。
まだ27歳だった僕は、やりたい盛り。術後、主治医に相談すると泌尿器科を紹介されました。しかし勃起障害のため治療薬は、僕には効果がありませんでした。体調がいいときに若干の反応はあるものの、挿入は厳しい状態です。
医師に言われたのは、「5年経てば、神経がつながってきて性機能が戻る」。でも、僕の余命は、「30歳までは生きられないだろう」だったんです。タイムリミットは3年もないのに、計算が合わないと思いました。結果としてそれ以上に生きることができて13年経ちましたが、勃起障害、射精障害とも治っていません。
それでもぬくもりは感じたい
病気になってから3人とお付き合いし、そのうち1人は理解を示してくれました。素肌で抱きしめ合ったり、触れ合ったり、挿入までの過程をしていました。人工肛門を見られることにはまったく抵抗がなかったです。でも、それも最初のうちだけ。しばらくして、「最後までできないから」と言われてしまい、別れることになりました。悔しさはあったけれど、怒れなかったです。
今は、「付き合っても本当に理解してくれるだろうか」と思うと、怖くてパートナーを作ることができません。
僕は、性欲があるのに勃ちません。それでもぬくもりを感じたいというのは、すごくあります。体を触れ合わせたいし、口でもしてもらいたい。女性とのスキンシップがとれないのは、がん以上につらいんです。せめて勃てば、男として自信を持てるのかなと思います。
精神的にキツくて、「だれか助けて!」という心境。ある医師は、「進んだ技術もあるから」と言ってくれます。もっと進歩して、普通に勃つようになるといいのですが。
僕ががんになったころは、がん患者が性の悩みを言葉にすること自体、タブーのような時代でした。医療者に理解されないと思えば、患者は相談したくてもできません。
僕はこれまで、講演活動や男性だけの座談会のなかでも、ここまでの話をすることはありませんでした。本当につらい部分は、ずっと話せなかったんです。
それがやっと、「性の悩みを話してもいい」というところまで社会が動いてきました。まだまだ複雑な思いはありますが、話せるようになったのはうれしいですね。やっと時代が、僕たちの思いに追いついてきた気がします。
取材/文 木口マリ