勃起障害・射精障害はあるけれど、夫婦仲良く暮らせています

20歳時、精巣腫瘍に罹患した男性(49歳)に話を聞きました。

女性には、家族であっても言いづらい

ある日、精巣に違和感を感じました。しかし当時は「泌尿器科」の存在すら知らず、どこに相談すればいいのか分かりませんでした。大きな病院へ行ってみたものの、受付は女性。性器の話はとてもしづらく、しばらくフロアをウロウロしてしまいました。
何とかがんばって受付で問い合わせ、泌尿器科に行ってみると、精巣腫瘍との診断。睾丸を片方取ることになりました。精巣の病気は、妻にも言いづらさがありました。「言わないとしょうがない」と思って伝えましたが、手術で摘出した睾丸の確認は、母にお願いしました。

最も心配だったのは、「今後、子供を作れるのか」。医師から妊よう性(子供を授かる能力)の話はなく、自分からたずねました。当時は結婚したばかりで、妻は1人目の子供を妊娠中。夫婦生活のことよりも、2人目ができるかどうかの方に意識が向いていました。

障害は残っているけれど

その後は特に障害も残らず、翌年には2人目の子供もできました。しかし、しばらくして転移が見つかってしまい…。治療法は手術と抗がん剤で、「勃起障害と射精障害が起こる」と医師から説明がありました。
「次にがんが移るとしたら、肺。そして脳に行く。ここで止めなければいけない」とのこと。医師に言われるがまま、治療を受けることになりました。

説明どおり、勃起障害と射精障害になり、数年経った今もそのままです。セックスをしたい気持ちはあるけれど、妻も僕も毎日が忙しく、お互いにそこまで求め合ったりはしていません。と言っても、妻に関心がないのではありません。一緒にお出かけするなど仲良く暮らせているので、それも一つの在り方かなと思っています。

「相談できる人を探す」のが難しい

今、がん治療後の性の問題で悩んでいる人は多くいます。解決するための第一歩は、「相談できる人を探すこと」。でも、それがなかなか難しいのです。
僕が最初に病院に行ったときのように、窓口は、ほとんどが女性です。支援団体も、奥に男性職員がいたとしても、最初に対応するのは女性が多い。性の悩みは、性別が違うとやはり話しにくいところがあります。
もしも悩んでいる人がいたら、支援団体などが人と人をつなげる窓口になってくれるといいですね。悩んでいる人にとって、相談しやすい環境ができたらと思います。

病気になってから、根本的に考え方や価値観が変わりました。「人生は一度きり」。悔いの残らないように生きたいし、人生を楽しみたい。今悩んでいる人も、そうなれるといいなと思います。

取材/文 木口マリ