がん治療中の性交渉で気をつけたいこと

がん治療の飛躍的な進歩により、がん治療を受けながら仕事を含む日常生活を続ける人が多くなりました。がん治療は、もはやすべての生活を犠牲にして受けるというものではありません。また自分のパートナーががん治療中を受けている場合も、腫れ物に触るようにそっとしておくことが最良ではないのです。

もちろん、がん治療中は一時的に様々な制約を受けることになります。それでも可能な範囲で工夫をしながら、生活にいろいろな楽しみを織り込んでいくことが大切です。そして性的な活動も生活の楽しみの一つと言えます。

がん治療は治療中や回復期を含めれば、長期にわたることがほとんどです。その間も、特定の状況下では避けつつも、気分や体調に配慮した上での性交渉は、一般的に安全だと考えられています。ただし生殖器官や膀胱、肛門、大腸などに関連するがんで、手術や放射線などの治療を行っている場合は、性的活動をはじめられる時期を医師に確認する必要があります。

また化学療法を受けている人は、白血球が減る、血小板が減るといった副作用が出ている期間もあるでしょう。白血球が減っている時は感染症にかかりやすく、血小板が減っている時は出血しやすくなります。血液の状態が正常に戻っても、がん治療の影響で性交の際に痛みを感じる女性もいるので、潤滑剤を使って性交をスムーズかつ安全に行う工夫などを医療従事者に相談してみましょう。なお化学療法は胎児に影響を及ぼすので、化学療法を受けている期間および終了後も一定期間は確実に避妊することが重要です。

一方、治療薬の副作用として性欲が薄れる、気分が落ち込む、疲労感がひどいといった状況や、体調はまずまずでも脱毛や手術、体重の変化などによるボディ・イメージが気になって、性的な自信を失ってしまうこともよくあります。無理に性的な活動をする必要はありませんが、パートナーがいる人はそうした自分の状況や気持ちを率直に相手に伝えることが大切です。何も伝えないままだと、パートナー側が拒絶されたと誤解してしまうこともあります。

逆に治療中の人が自分の状況や気持ちを説明してパートナーと話し合うことで、その時々に応じた愛情確認や楽しみの方法を見つけられるかもしれません。ちょっとしたマッサージや、寄り添っていたわりの言葉を交わすだけで満ち足りた気分を味わえる時もあるはずです。性欲の回復や痛みなどを感じずに再びパートナーと性交を楽しめるように、雰囲気づくりやタイミングなどをパートナーと一緒に工夫したり、セックス・セラピストやカウンセラーに相談してみたりするのも良いでしょう。

それでもがんの治療中には、誰かと性的な時間を過ごすこと自体に負担を感じてしまう時もあるかもしれません。そんな時はエロチックな映画や小説、ソロ・セックス(自分自身でする性行為)を楽しむことも有用です。ソロ・セックスによって性的な感覚を取り戻したり、どこに快感を感じ、どこに痛みを感じるかなど、自分の体の変化について知ることもできます。パートナーと性交する際にも、事前にそうしたことを伝えることでより理解が深まるはずです。

翻訳・執筆 片瀬ケイ(一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ:JAMT)

参考にしたリンク
Chemotherapy and Sex: Bedroom Safety, Tips, Arousal (verywellhealth.com)
Sexual intimacy during cancer treatment – Dana-Farber Cancer Institute | Boston, MA