がん検診の受診率低いLGBTQ人口
放射線学会がLGBTQなどマイノリティの乳がん検診に言及
米疾病対策センター(CDC)の調査によれば、受診者報告に基づく2016年の乳がん検診受診率は78.3%、子宮頸がん検診は79.9%、大腸がん検診の受診率は67.7%でした。こうしたスクリーニング検診とがんの早期発見は、がんによる死亡を減らす上で有効です。そんな中でもLGBTQの人たちは非LGBTQ人口と比べ、がんの診断を受ける率が高く、また進行した段階で診断されることが多いという研究結果がでています。
例えばレズビアンやバイセクシャルの女性は、ヘテロセクシャルの女性と比べて乳がんや子宮頸がんの診断を受ける率が著しく高いといいます。またHIV(ヒト免疫不全ウィルス)やHPV(ヒトパピローマウイルス)感染に関連する肛門がん、カポジ肉腫、口腔咽頭がんなどの発症も、ジェンダー・マイノリティに多く見られます。
これにはLGBTQの人たちのがん検診受診率が低いことも影響しています。Oncology Nursing Society(米国がん看護協会)の学術誌に発表された研究によれば、従来の性の規範に当てはまらないと感じるジェンダー・ノンコンフォーミング、トランスジェンダーやバイセクシャルの人々の間では、特に乳がん、子宮頸がん、大腸がん検診の受診率が低く、性的指向や性自認がスクリーニングを受ける上での障害となっている可能性があるそうです。医療機関で差別的な扱いを受けることへの不安、スクリーニングに関する知識やガイドラインがないこと、経済的に不安定、医療保険に加入していないなど、様々な要因が障害となっています。
LGBTQには多様な人達が含まれます。その一人ひとりに対し、医療側も具体的にどの人に、どのタイミングで、どのスクリーニングをすればよいか、またLGBTQの患者が安心できるような接し方などのトレーニングが圧倒的に不足しています。LGBTQの人達に寄り添おうとする小児科医、プライマリケア医がいる一方で、トランスジェンダーの人が診療を断られることがあるのも現実です。
ジェンダー・マイノリティといいますが、米国のLGBTQ人口は決して少なくありません。18歳以上の1万5000人を対象に性自認について聞いた2020年のギャラップ調査によれば、5.6%の人がLGBTQに属すると回答しました。2012年の調査では3.5%でしたが、LGBTQに対する理解が深まるにつれ、年々、特に若い世代で増加傾向にあります。米国の18歳以上人口が約2億900万人なので、単純にその5.6%がLGBTQを自認する人だと仮定しても117万人以上という計算になります。
そんな中、米国放射線学会(ACR)と乳房画像診断学会(SBI)は6月、乳がん検診のガイドラインアップデイトにおいて、トランスジェンダーや黒人女性など乳がん検診の受診率が低いマイノリティグループに注意を向ける必要があると言及しています。
例えば男性から女性へと移行したトランスジェンダーの場合、ホルモン剤の使用で一般の男性より乳がんのリスクが高くなります。また女性から男性へ移行した人の場合も、乳房切除を受けていない場合は、通常の女性と同じように乳がんのリスクがありますが、トランス男性は乳がん検診の必要性を認識していないかもしれません。
両学会では、すべての女性は30歳で乳がんのリスク評価を受け、平均的なリスクの女性は40歳からスクリーニングを受けはじめること、乳がんの診断を受けたことのある人はスクリーニングにMRIを使うことを推奨しています。
米国では近年、マイノリティが経験している様々な格差が可視化され、医療分野でもこうした格差の解消が大きな課題となっています。LGBTQ人口へのニーズにも目を向け、適切ながんスクリーニングや当事者への健康管理教育、LGBTQの人々のニーズに対応できる医療ケア体制などを早急に整えることが求められています。
参考にしたリンク
Preventing Breast, Cervical, and Colorectal Cancer Deaths: Assessing the Impact of Increased Screening (cdc.gov)
AACR Conference Examines Cancer Disparities in the LGBTQ Population – American Association for Cancer Research (AACR)
Barriers and Facilitators to Cancer Screening Among LGBTQ Individuals With Cancer – PubMed (nih.gov)
New Breast Cancer Screening Guidelines Address Heightened Risk for LGBTQ Persons and Black Women | American College of Radiology (acr.org)
翻訳・執筆 片瀬ケイ(一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ:JAMT)