子宮頸がんは減っても、HPV関連がんや他の性感染症は増加傾向
米保健福祉省が性感染症対策で5か年計画
2020年以降、世界中が新型コロナウイルス感染症対策に医療資源を注ぐ一方で、性感染症(Sexually transmitted infection:STI)の増加も続いています。コロナ禍の影響で、緊急以外の医療サービスやセクシャルヘルスに対する啓発活動が一時的にストップしたり、外出を伴う受診控えの影響もありそうです。
オーラルセックス(口腔性交)を含むさまざまな性交渉により、誰でも性感染症になる可能性があります。最も一般的なものはHPV(ヒトパピローマウイルス)感染症でしょう。HPVは子宮頸がんだけでなく、男女ともに発症する性器のいぼや、肛門がん、また男性に多く見られる中咽頭がんなどいくつかのがんの原因になります。性交渉を行う人の8割はいつかの時点でHPVに感染すると言われています。
米国では2006年6月から子宮頸がん予防でHPVワクチン接種を開始し、2009年10月からは男子も対象に定期接種として、現在は9価ワクチンを接種しています。この数年は子宮頸がんの罹患率、死亡率とも減少傾向が続いており、2004年には罹患率が人口10万に対し8.1、死亡率が2.4だったのが、2018年は罹患率が6.7、死亡率は2.2まで下がりました。ちなみに日本の罹患率は人口10万人対し14.1(2017年)、死亡率が4.6(2019年)です。ただし、米国でも中咽頭がんなどのHPV関連がんは増えています。このため、女子に比べて接種率の低い男子にも、積極的な接種を呼びかけています。
また多く見られるSTIに、クラジミア感染症、淋病、梅毒があります。米疾病対策センター(CDC)によれば、2019年に報告されたこの3つの感染症件数の合計だけで、250万件にも及びました(2021年4月発表)。これは過去6年で最も多い件数です。
CDCに報告される性感染症の総件数は、2015年から2019年の間に約30%年も増えています。性感染症は、はじめのうちは症状を自覚しない場合もありますが、治療を受けずに放置してしまうと、慢性的な骨盤痛や骨盤内炎症性疾患、不妊、早産、新生児死亡などに繋がります。2015年から2019年までで最も増えた性感染症は、先天梅毒(梅毒の母子感染)でした。
一方で、トランスジェンダー、若者、男性同士で性交渉をする人は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染する割合も高いです。米国の保健福祉省(HHS)は2020年12月、STI抑制に向けて初めて「性感染症戦略」5か年計画を策定しました。この計画ではHPV、クラジミア感染症、淋病、梅毒を中心に、予防と治療に積極的に取り組むとともに、性感染症やセクシャルヘルスについてスティグマ(恥のイメージ)を持たずに、誰もが健康な生活を送るための予防、検診、治療、支援などの体制づくりを目指しています。
翻訳・執筆 片瀬ケイ(一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ:JAMT)