男らしさ、女らしさ、自分らしさって?
女性特有の臓器である乳房や子宮・卵巣を失うことは、からだだけでなく、こころに大きな喪失感をもたらすことがあります。妊娠・出産に紐づき神聖化されがちな存在ではありますが、一方でからだを構成する一つの臓器に過ぎません。さらに、一時的とはいえ髪の毛を失う喪失感も、多くの女性にとって、見過ごせないものです。失ってしまったからといって、あなたの女性としての魅力がなくなってしまうわけではありません。また、男性にとって、勃起や射精ができなくなることは、人によっては、いのちよりも重い、尊厳に関わることだと治療をためらう方もいます。しかしながら、男性が強く思う程、パートナーはそのことを重要には思ってはいないかもしれません。ましてや、あなたの中の男らしさが消えてしまうわけではないのです。
がんの治療は、ときに、その人が大切にしてきた「男らしさ」「女らしさ」に揺らぎをもたらします。「男らしさ」、「女らしさ」の喪失感は、自分に自信が持てなくなったり、ひいては、セックスを躊躇したりすることにもつながります。性の多様性が謳われるようになっても、私たちはたくさんの「男らしさ」「女らしさ」の呪縛にとらわれているようです。もちろん、あなたが大事に思う「男らしさ」や「女らしさ」を否定したいわけではありません。だけれど、その固定観念があなたを苦しめるのだとしたら、少しだけ手放してみるのも悪くはないかもしれません。
社会が押し付けてくる、男とは女とはかくあるべき規範からではなく、性別に関わらず、自然体のあなたが発する「男らしさ」や「女らしさ」の中には、たくさんの魅力がつまっていることでしょう。
加えて、がんの治療中に「自分らしさ」の喪失を感じることもあります。自慢の柔らかな肌が抗がん剤や放射線治療によって変化したり、体重の変化や浮腫、ムーンフェイス、皮膚の脱皮、さらには爪が黒くなったり伸びてこなかったり…。外見上の変化から「自分らしさ」が失われたように感じ、外出をしたり人に会ったりすることが億劫になってしまうこともあるでしょう。周りにどう見られるか気にして隠すためではなく、少しでも自分らしく心地よく過ごすために、いろいろなウィッグを試してみたり、カバーメイクを試したり、新しい自分を見つける工夫が、気持ちを前向きにしてくれることがあります。
「男らしさ」「女らしさ」「自分らしさ」
喪失感は、あなたが何を大切にしているのかに気付くチャンスでもあります。たとえば、セックスする上で大事だと感じていた乳房を失ったとき、見た目の喪失感だけでなく、性感帯としての乳房の喪失が問題なのだとしたら、乳房を再建できただけでは満たされないことに気付くでしょう。乳房への思い入れを手放すことは容易いことではないかもしれませんが、自分が大切にしているものが何かを認識できたとき、別の性感帯を見つけるという、次のステップへと進んでいくことができるのではないでしょうか。
セックスは、本来お互いがリラックスして、あるがままの姿に戻れる場であるはずです。あなたの中の魅力に、あなた自身が気付いて、前向きな気持ちでセックスを楽しんでほしいと思います。