がんやがんの治療が妊孕性に与える影響 ~男性編~
がん治療がもたらす男性の不妊の原因には、主に次の4つがあります。
①抗がん剤と放射線による精巣機能不全
化学療法による抗がん剤投与は、精巣がんに限らず、さまざまな種類のがんにおいて、造精機能に影響を与える可能性があります。抗がん剤の種類にもよりますが、抗がん剤が身体全体を回り、それが精巣にダメージを与え、精子の減少につながります。また、放射線治療における精巣あるいは脳(下垂体)への直接照射が造精機能の低下をもたらします。
②精路の切除
精子は精巣でつくられ、精巣上体から精管をつたって、前立腺を通り、射精管から外に排出されます。この精子の通り道のことを精路といいます。主に高齢者に多い前立腺がんでは前立腺の全摘、膀胱がんでは尿道まで切除することで、精路が絶たれることになります。
また、若年層に多い骨盤内の肉腫においても、生殖器官を切除することで精路が絶たれ、不妊につながることがあります。
③勃起・射精障害
勃起・射精障害は、前立腺がん、精巣がんを始め、膀胱がんや直腸がんなどでよく見られる症状です。勃起障害は、多くは前立腺がんで生じますが、骨盤内腫瘍である膀胱がんや直腸がんなど、勃起神経を障害する手術を受けることで起きます。射精障害は、主に精巣がんで生じます。中でも精巣がんの後腹膜リンパ節郭清術は、お腹の中のリンパ節を郭清する際に神経を切断するため、逆行性射精を生じることがあります。また、これらのがんに限らず、がんの転移の影響で下半身まひを生じているケースなどでも射精障害を生じることがあります。
④下垂体の機能障害
脳の視床下部・下垂体では、勃起や射精をもたらす男性ホルモンの分泌を促すホルモンがつくられています。脳の視床下部・下垂体で分泌されるホルモンには、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体ホルモン)があります。FSHは精巣で精子を分化成熟させ、LHは精巣で勃起など男性機能を司るテストステロン(男性ホルモン)の分泌を促進する役割を担っています。そのため、脳腫瘍の手術や、転移性脳腫瘍も含む脳腫瘍における全脳照射、下垂体腫瘍の定位照射をすることで、視床下部・下垂体がダメージを受けると、ホルモンが産生されず、精子がつくられなくなります。
また、免疫チェックポイント阻害剤が下垂体に影響を与えることもあります。下垂体が影響を受けると、FSHが低下し、不妊につながることがあります。