性欲の低下

がんの種類に関わらず、がんという生命の危機をもほうふつとさせるライフイベントを経験すると、精神面で落ち込み、うつ症状に陥る患者さんは少なくありません。治療のこと、仕事や学校のこと、治療費のこと…とさまざまな悩みや不安から、性への関心が薄れたり、性欲が低下したりすることも自然なことです。心理的な原因による性欲の低下は、がん患者さん全般に起き得ます。

また、抗がん剤や放射線などの治療による、吐き気・嘔吐、だるさ、倦怠感といった副作用が性欲の低下に影響することもあります。

性腺・性機能へ影響を及ぼすがん治療が、性欲低下を招くこともあります。たとえば、男性ホルモンは、筋肉の増加、睡眠の安定、集中力を高める、性欲を維持する、勃起を強くするなどの役割を果たしていますが、前立腺がんにおける男性ホルモンを遮断するアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy=ADT)のような治療は、性欲を始めとする性機能にマイナスに働きます。男性ホルモンが失われると、女性の更年期同様、性欲低下、筋肉が減って太ってくる、集中力の低下、睡眠障害など、男性の更年期症状があらわれ、QOLが下がります。こうした症状を敬遠し、ADTを拒否する患者さんもいるほどです。

加えて、うつ状態を改善するために飲んでいる抗うつ薬そのものが性欲低下や性反応の抑制、勃起障害を生じることもあります。加えて、がん患者には高齢者が多く、高血圧、糖尿病、脳梗塞などのほかの病気も併発していて、これらに対する薬が性欲低下を招いていることもあります。影響の少ない薬の選択を主治医と相談してみるのも一案です。

一方、抗がん剤などの治療を受けていても、人によっては性欲低下に影響しないこともあります。たとえば、精巣がんで抗がん剤治療を受けていたとしても、造精機能とセックスは別問題であるため、たとえ精子をつくる機能が回復していなくてもセックスは可能です。ただし、治療中や治療後に以前のように性的な気分になれなかったり、今までと同じ方法ではセックスできにくかったりすること、でもセックスを楽しみたい気持ちはあることなど、パートナーとも共有できれば、気持ちが楽になるのかもしれません。