勃起障害2-勃起のしくみ/EDと前立腺がん

勃起のしくみ

勃起には、神経系と血管系の2つが深く関わっています。まず、脳が性的興奮を覚えると、神経を伝ってペニスへと伝えられます。この時、性的な刺激があるとは限りません。しかしながら、脳が性的興奮を得て、それがペニスに伝わると、ペニスの海綿体につながる動脈血管が広がり、大量の血液が集まります。海綿体はスポンジのように血液を吸収し、膨らみます。海綿体はやわらかい組織ですが、白膜という硬い膜に覆われています。白膜があることで、静脈は膨張する動脈に圧迫され塞がれてしまうため、血液がペニスに留まり、硬さを維持することができます。これが勃起のしくみです。

ED(勃起障害・勃起不全)と前立腺がん

ED(勃起障害・勃起不全)の悩みを持つがん患者さんの多くは前立腺がんの患者さんです。多くの場合、前立腺がんの治療に伴いEDを生じてしまうことがあるからです。勃起神経は前立腺のそばを走行しています。外科手術では勃起神経を切除したり傷つけたりすることがあります。前立腺を放射線照射する場合にも勃起神経はダメージを受けます。がんが前立腺にとどまる限局的な前立腺がんは生命予後が長く、QOLの重視が求められ、QOLを保つための治療選択肢が多いからこそ、悩めるという側面もあります。前立腺がんは60歳代以上に多く見られるがんですが、中には勃起機能を残したいという思いを強く持つ患者さんもいます。

しかし、がんを治すことが優先されがちで、「性交渉などよりいのちが大切でしょう」と、患者さん本人と配偶者・パートナーとの意識に差があることも少なくありません。配偶者・パートナーはいのち優先で広範囲な前立腺の外科治療を希望しているが、本人は望んでおらず、後でこっそり主治医に勃起神経を残して欲しいと相談してくる…なんてことも。また、男性の中には性交渉がなくても、勃起そのものが男の尊厳ととらえ、朝立ちがなければ死んだほうがよいとまで言う人もいます。前立腺がんの治療で手術をしなくてはならないが、勃起機能を維持するために、手術を望まない人もいるというほど、勃起機能の維持は人によってはとても重要なものです。しかしながら、がん治療を行う医師の立場からすると、いのちが最優先になるのはある意味自然なことで、ほかを犠牲にしても制癌効果を第一に考える側面は否めません。生命予後が短い病気においては一層その傾向が強まります。ロングサバイバーである前立腺がんでは、QOLが重視されるとはいえ、排尿はともかくも、性に関して重きをおく医師はやはりそう多くはないのが現状です。