セックス中の痛み(性交痛)
潤い不足からくる性交痛
がん治療に伴う性機能障害で訴えの多いものの一つが、セックス中の痛み、性交痛です。性交痛をもたらす原因の一つが腟の潤い(潤滑)不足ですが、主に卵巣でつくられる女性ホルモンの低下により生じます。子宮がんや卵巣がんの卵巣摘出手術は、女性ホルモンの低下をもたらします。乳がんや子宮体がんにおける抗ホルモン療法(内分泌療法)も、女性ホルモンの分泌を抑制します。子宮頸がんの放射線治療では、卵巣への照射で卵巣機能が戻らず、女性ホルモンの低下が生じることを避けるため、放射線が当たらないように卵巣を移動させ固定する卵巣移動術を行ってから、照射する場合もあります。
女性ホルモンが低下すると、腟粘膜が薄くなり、潤滑液が分泌されにくくなります。すると、腟の潤いが低下し、濡れにくくなることから性交痛を生じます。一度性交痛を経験すると、その記憶から、濡れにくくなったり、ますます痛みに敏感になってしまったり、セックスに対して億劫な気持ちが生まれてしまったりしがちです。また、性交痛とひと言でいっても、挿入時には痛みがあるものの徐々に潤ってセックスができるというケースから、翌日~数日間まで痛みが続くというケースまで、性交痛の程度はさまざまです。
性交痛の予防と緩和
性交痛の緩和には、潤滑ゼリーを利用したり、ゼリー付きのコンドームを利用したりすることが有効です。処方箋が不要で、ドラッグストアやインターネットでも購入できます。ワセリンなどの油性の潤滑剤は、炎症を引き起こすことがあるため、水溶性で無添加のものが好ましいでしょう。潤滑ゼリーは量を調整したり、女性の腟の入口周辺や中だけでなく男性のペニスにも塗って使用したりすることで、より性交痛の緩和につながることがあります。パートナーと一緒に、上手に利用してみてください。
ほかには、週に数回利用することで、腟粘膜を厚くし、自然に潤いをもたらすモイスチャライザーもあります。
また、女性ホルモンを補充するホルモン補充療法(HRT)という治療法もあります。子宮を温存している患者では、エストロゲンとプロゲステロンの併用療法、子宮摘出後の患者では、エストロゲンの単独療法が推奨されています。飲み薬、皮膚に貼るパッチ剤、塗り薬、注射と、さまざまなタイプがあります。乳がんや子宮体がんなど、エストロゲンに感受性のある一部のがんでは、ホルモン補充療法を回避する選択が一般的ですが、近年では、ホルモン補充のメリットデメリットを理解した上で、必要に応じて、ホルモン補充療法という選択を行うこともあります。
女性ホルモンの低下は、性交痛や性欲低下も含め、ホットフラッシュや筋力低下、全身倦怠感、イライラにうつ症状といった更年期症状をもたらします。ホルモン補充療法は更年期障害に対する治療の第一選択となります。
膣の短縮や線維化などがもたらす性交痛
腟の潤い不足のほかに、セックス中の痛み(性交痛)をもたらすのが、腟の短縮や線維化です。子宮摘出に伴い、腟の一部も摘出し、腟の短縮がもたらされることがあります。腟の伸縮を失うと、深い挿入に不快感が生じることもあります。どのくらいの長さを切除するかにもよりますが、体位を変えたり、腟の代わりに腟の前に手を輪にして長さを補ったり、工夫をすることで、患者さん本人もパートナーもともに心地よい時間を過ごすことにつながります。
放射線治療で腟に照射すると、線維化(傷痕化)したり、萎縮したり、狭くなったり、腟壁が癒着し、閉じてしまうことがあります。放射線治療後は放置するのではなく、きちんと内診を行い、腟の状態を確かめることが大切です。内診が癒着の予防につながります。腟ダイレーターといって、腟を拡張する医療器具も、腟が硬くなったり、狭くなったりすることを予防してくれます。また、セックスそれ自体にも予防効果があります。潤滑ゼリーを使ったり、心地よい体位を探してみたりすることで、快適なセックス生活を再開することが、腟の状態を改善し、性交痛の予防につながります。