中年期女性にとっても性生活は重要~見過ごされがちな女性がん体験者の性的問題~

一般的に女性は年齢とともにセックスへの関心が薄れていくと見られてきましたが、2020年9月の北米更年期学会(NAMS)で発表された「中年期の女性におけるセックスの重要性」についての最新調査によると、「中年期を通してセックスは非常に重要」と答えた人が約4分の1に上っていました。ただし人種や身体的、精神的状況などの要因で、セックスへの関心に違いが出ることも明らかになりました。

これは北米で行われている全国女性健康調査(SWAN)の結果で、3200人以上の女性が回答したものをもとにした研究です。調査に参加した27%の女性が「中年期を通してセックスは非常に重要な要素」と答え、さらに約半数の47%の女性が「セックスは中年期の前半において重要で、その後は時間と共に重要度が下がっていく」と回答しました。また人種別では、黒人女性が中年期においてもセックスを重要視する一方で、中国人および日本人女性はそれほど重要視しない、あるいは時間と共に重要度が下がっていくと考える傾向にあったそうです。

また、セックスへの満足度が高い女性は中年期を通して継続的にセックスを重要視しますが、うつ症状がある女性はセックスをあまり重要視しない、あるいは関心が薄れる傾向にありました。北米更年期学会の医療ディレクターであるStephanie Faubion医師は、「このような調査は、性への関心が薄れるのも、加齢による自然の成り行きと考えがちな医療者に、貴重な洞察を提供します。女性がセックスに関心を失った理由に、うつ症状や膣の乾燥といった、治療可能な症状があるかもしれないのです」と述べています。

乳がんや婦人科がんなどの体験も、セックスに対する意識に大きな影響を与えます。治療のために乳房や卵巣、子宮、髪の毛などを失い、ボディーイメージが変わり、性的な自信を失ってしまう場合がほとんどでしょう。イメージだけでなく、薬物療法や放射線治療によりホルモン変化の影響を受けたり、 末梢神経痛で性的興奮が起きにくかったり、膣が乾燥し、性交で痛みを感じるようになることもあります。

実際、米国放射線治療学会(ASTRO)が391人のがんサバイバーを対象に2020年行った調査では、10人のうち9人が「治療後のセクシャルヘルスまたは生活の質が低下した」と回答しています。しかし治療前に、性的な影響について説明を受けていたのは、回答者の半数以下でした。治療後に、男性患者の半数は治療による性的な問題について医師と対応を話し合いましたが、女性患者が医師と性的な問題について話したのは、わずか2割だったそうです。

ほとんどの患者は、自分から性の問題について医師に口頭で提起することに抵抗を感じており、事前に質問票などに記入して、それをもとに医師から対話をはじめてほしいと思っているようです。

がん治療が進歩し、治療後もがんサバイバーとして長い人生を送る人が増えています。性の問題は生活の質に大きく関係します。女性のがんサバイバーが抱える性的問題への支援はまだまだ足りませんが、国際女性性機能学会(ISSWSH)では、外科医、腫瘍医、放射線医、看護師、精神科医、セックス・カウンセラー、理学療法士など世界中から様々な専門家が集い、女性が充実したセックスライフを送るための研究を進めています。

参考リンク
sex-importance-to-women-during-midlife-9-22-20.pdf (menopause.org)
Sexual health often overlooked in cancer survivorship care, especially for female patients (medicalxpress.com)
ISSWSH – Home

 

翻訳・執筆 片瀬ケイ(一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ:JAMT)