自宅でできる緩和ケア
はじめに
緩和ケアは身体と心の「痛み」を和らげます
最近、緩和ケアという言葉をよく耳にするようになりました。WHO(世界保健機関)は2002年に緩和ケアについて「生命をおびやかす病気に直面している患者とその家族に対し、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確に評価して対応することで苦しみを予防し、和らげることで生活の質を良くする方法」と定義しています。
つまり、身体の痛みや心の痛みだけではなく、社会生活を送るうえでの不安、さらにはがんを抱えていることで生じる将来への懸念や無力感など、人としての「痛み」や「つらさ」を和らげるための方法なのです。必要に応じて薬剤が使われるほか、カウンセリングやセルフケアを組み合わせていきます。
参考資料
- WHOホームページ http://www.who.int/cancer/palliative/en/ より一部抜粋、意訳
身体の痛みと緩和ケア
身体の痛みは鎮痛剤やオピオイドを使って和らげます
がんになると診断時で約3割、進行段階では7割以上の方が痛みを経験します。ごく早期から痛みがある方、進行してから初めて痛みを感じる方など痛みのあらわれ方は人それぞれです。また、がんとは直接関係しない手術創の痛みや抗がん剤の副作用による痛みもあります。
最近のがん医療では「痛み」はがまんせず、すみやかに取り除くことが当たり前の考え方です。痛みの強さに応じて段階ごとに、アスピリンやイブプロフェンといった一般的な鎮痛薬をはじめ、オピオイドと呼ばれる鎮痛薬を使って痛みを和らげます。痛みの種類によっては少量の抗うつ薬や、抗けいれん薬、そして抗不安薬を使うこともあります。
参考資料
- 日本緩和医療学会「がん疼痛治療ガイドライン」作成委員会:Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン. pp4-5, 真興交易, 東京, 2000
- がん緩和ケアに関するマニュアル(改訂第3版)第4章VII 鎮痛薬の役割と使用法の基本原則. 公益財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団発行, 東京, 2010 (http://www.hospat.org/manual-4-2.html)
心の痛みと緩和ケア
心と身体の痛みはお互いに影響しあっています
「悪い知らせ」に直面した際に息苦しさや胸の痛みを感じるように、「痛み」は身体的なものだけではなく、患者さんの感情や考え方などいくつかの原因がからみあって生じます。誰でも慢性的な痛みがあると不安や抑うつ気分が悪化したり、逆に憂うつな時は軽い痛みでも普段に増して苦痛に感じるものです。だからこそ「痛み」がある時には身体だけではなく、心にも目を向けることが大切なのです。
身体の痛みと心のあり方が強く関係しているということは、心のケアを行うことで痛みが和らぐ可能性もあります。がんの治療中に痛みを感じた時は、主治医のほか心の専門家にも相談してみましょう。
参考資料
- 明智龍男:がんとこころのケア, pp.178-183, 日本放送出版協会, 東京, 2003
「痛い」「つらい」を伝えましょう
「痛み」を伝えることは、がんを治療する上でとても大事なことです
最近のがん医療は「痛み」や「つらさ」をがまんせずに、和らげる方向へと動きだしています。ところが時に患者さんご本人が「周りに迷惑をかけたくない」「弱音を吐きたくない」とがまんをしてしまうことが少なくありません。また、痛いという感覚は十人十色で自分の痛みをご家族や医師に上手く伝えられず、諦めてしまう方も多いようです。
痛みをがまんし続けていると気分が落ち込み、眠れない、食欲がでないなど肝心の治療に向き合う意欲が失われてしまいます。痛みをきちんと伝えて対応してもらうことは、前向きに治療を続けていくうえでとても大事なことなのです。
参考資料
- 国立がん研究センター対策情報センター編集・発行:がんと療養シリーズ. がんの療養と緩和ケア, 2010
- 大西秀樹:女性のがん心のケア ~乳がん・子宮がん・卵巣がん・大腸がん~, pp.170-180, 土屋書店, 東京, 2008
痛み日記をつけてみませんか
痛みの情報は緩和ケアのための大事な手がかりです
いつ、どこで、どれだけの痛みがあったかを覚えておくのは難しいものです。しかし、こうした情報は適切な緩和ケアを行うための大切な手がかりになります。痛みを和らげるために「痛み日記」をつけてみませんか。もし身体や心の痛みがあったり、すでに緩和ケアを受けて鎮痛薬を服用している場合は、ぜひ「痛み日記」をつけて主治医や心の専門家に見てもらってください。
参考資料
- 的場元弘:私の痛みと治療の日記. 春秋社, 2005
- 国立がん研究センター対策情報センター編集・発行:がんと療養シリーズ. がんの療養と緩和ケア, pp.14-16, 2010