温かな距離を保つ
大切なことは、温かい心の交流です
検査診断から告知、治療という一連の流れのなかで、患者さんは衝撃を受けたり、不安になったりと様々な心の変化に直面します(図)。ご家族は何とか支えたいという思いから、励ましや慰めの言葉をかけてしまいがちですが、逆に患者さんを追いつめてしまうこともあります。
大切なのは、普段から患者さんが孤独感を感じないような支援の体制を作り、温かい心の交流を行うことです。
患者さんを傷つける言葉
「がんばって」、「しっかりして」という言葉は、不安や落ち込みの真っただ中にいる患者さんの負担になってしまうことがあります。「つらい」気持ちを訴えられたときは、「つらいのですね」と共感を示すのみにとどめましょう。とはいえ、ご家族自身に不安や怖れがあると、どうしても「がんばって」という言葉をかけてしまいます。自分自身のためだけでなく、患者さんを支える温かな距離を保つためにもご家族の心のケアが必要なのです。
患者さんを癒す言葉
言い過ぎたり、不足したりと、言葉は意外に不便です。「癒そう」と無理をせず、いつでもかたわらにいるという気持ちで患者さんの話に耳を傾けましょう。患者さんはがんになったことで孤独感を深め、自分のことを「役に立たない」、「情けない」と感じていることもあります。その背景に思いを寄せながら、一人ではないというメッセージを込めて「話してくれてありがとう」という一言を添えてみましょう。
人と人をつなぐ言葉
同じ「つらい」という言葉でも、その中に込められたメッセージは歩んできた人生によって一人ひとり違います。その背景と患者さんの今の心の状態を思いやることで自然にでる言葉は、患者さんを癒し、再び家族との結びつきを強くする力を持つでしょう。また患者さんが人生に適応しようとする力を信頼し、本人に任せることも大切です。
参考資料
- 明智龍男:がんとこころのケア,pp.205-216,日本放送出版協会,東京,2003
- 大西秀樹:がん患者の心を救う―精神腫瘍医の現場から,pp.30-38,河出書房新社,東京,2008
- 大西秀樹:サイコオンコロジーの基本的知識 診断と治療 11:54-59,2009