患者さん、ご家族の方へ

がん患者さんも請求できる障害年金

障害年金は、病気やけがが原因で起こる障害により生活や仕事が制限されるときに支給される公的な年金です。よく障害者手帳と混同されますが、異なる制度です。しかしながら、がん患者さんが障害年金を請求できることはあまり知られていません。まずは、障害年金という制度があること、もしかしたら自分にも該当するかもしれないことを知って確認していただけたらと思います。

がんになると、治療のこと、仕事のこと、家族のこと、お金のこと、患者さんにはさまざまな不安や心配が生じます。そんなとき、障害年金は、がん患者さんと家族のお金と生活を支える大きな味方になってくれることがあるでしょう。請求するハードルが高いと、途中で断念してしまう患者さんも少なくない障害年金ですが、該当する方が正しい知識を持って、障害年金の請求をスムーズにできることにつながることを願っています。

どんな時にもらえる?

障害年金は、がん患者さんであれば誰もが受給できるわけではありませんが、働くことや日常生活に支障があり、要件に合えば、請求する権利があります。

たとえば、人工肛門の造設や造血幹細胞移植後の重度なGVHDはもちろんのこと、抗がん剤の副作用等で倦怠感がひどく一日の大半をソファで横になっていたり、薬剤の副作用などで指先に痛みやしびれ等の後遺症が残ってしまい、日常生活に支障をきたした場合、請求できることがあります。まずは、下記の一般状態区分表で1〜3級に該当していないかをチェックしてみてください。

また、障害年金は働いていても請求できます。フルタイムで働いていた方が体調不良で週3日だけ時短で働いているような場合や軽労働しかできなくなった場合にも請求できることがありますので、働いているからとあきらめず、自身が該当してはいないか確認してみることをおすすめします。

障害年金を受給するための条件

  1. 初診日に国民年金もしくは厚生年金に加入しているか
    ◆初診日 = 初めて医師の診療を受けた日
  2. 国民年金、厚生年金の保険料を納付しているか
    ・初診日の前日に、初診日の月の前々月までの被保険者期間で、保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせて3分の2以上あること。
    ・初診日が令和8年3月末日までにあるときは、初診日に65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日の月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと。
  3. 障害認定日において障害の等級に該当しているか
    ◆障害認定日 = 初診日から1年6ヶ月経過した日、あるいはそれまでに症状が固定した日
  4. ※初診日から1年6か月以内に、下記の特例のような事例に該当する場合は、その日が「障害認定日」となります。
    *がん患者さんによくある特例(参考事例として)
    新膀胱を造設した日/人工肛門造設・尿路変更術の日から6か月経過した日/喉頭全摘した日/在宅酸素療法開始日

受給要件フロー

受給要件フローの図
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あなたの状態が1〜3級に当てはまっているかチェックしましょう。

がんによる障害の程度を示した一般状態区分表

区分 一般状態
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の 50%以上は起居しているもの
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の 50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

がんによる障害は次のように区分されます。

(1) がんそのものによって生じる局所の障害 食道がんでそしゃくが困難、肺がんによる呼吸機能障害など。
(2) がんそのものによる全身の衰弱または機能の障害 体重減少、吐き気・嘔吐、下痢、食欲不振、味覚喪失、動悸、息切れ、貧血、手足のしびれや感覚麻痺
(3) がんに対する治療の結果として起こる全身の衰弱または機能の障害 人口膀胱、人工肛門、移植後のGVHD、抗がん剤等の副作用による体重減少、吐き気・嘔吐、下痢、食欲不振、味覚喪失、動悸、息切れ、貧血、手足のしびれや感覚麻痺
障害の程度 障害の状態 具体例
1級 著しい衰弱又は障害のため、一般状態区分表のオに該当するもの ほとんど寝たきりで過ごしている。トイレや食事にも介助が必要。家の中はつたい歩行。外出は車椅子。
2級 衰弱又は障害のため、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの 包丁が持てず料理ができない。外出には介助が必要で杖を利用。
3級 著しい全身倦怠のため、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの 食道がんでそしゃくが困難になり、おかゆしか食べられない。全身倦怠感のため、フルタイムでは働けず時短勤務。
障害手当金 「傷病が治ったもの」であって、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの。 ある程度食べることはできるが、そしゃくが十分できないため、食事が制限される

※具体例はあくまでも参考として提示しています。これらの障害があったとしても必ずその級で支給されるということではありません。

いつ請求できる?

障害認定日請求(本来請求)
障害認定日に障害の状態にあれば、障害認定日の翌月分から年金を受給できます。

障害認定日請求

遡及請求
障害認定日以降、いつでも請求できますが、さかのぼって受給できるのは、時効により5年分のみです。

遡及請求

事後重症請求
障害認定日に障害等級に相当せず、障害認定日請求ができなかった場合でも、その後病状が悪化し障害の状態に該当した時には、65歳の前々日までの間に事後重症請求を行うことができます。事後重症請求では、請求書が受理された日に受給権が発生し、請求した月の翌月分から年金を受け取ることができます。

事後重症請求

Point

  • 障害年金の請求において、自身でもわかりづらい日常の困りごとを可視化することが大切!
  • 日常生活でできないことや困ったことがあれば、都度メモをして残しておきましょう。
  • 「杖があれば歩行できる」ではなく、「杖がないと歩行できない」の視点で、日常の動作をチェック
  • 医師に日常生活での困りごとを言語化して、上手に伝えましょう。

支給額は?

初診日に国民年金に加入していた人は、障害基礎年金が支給されます。初診日に厚生年金に加入していた人は、障害基礎年金と障害厚生年金が支給されます。障害年金は、障害基礎年金か、障害厚生年金かで支給額が異なります。また、年金額は毎年改訂が行われます。

障害年金の種類と支給額

障害年金の種類と支給額の図
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2024年(令和6年)の年金額
下記は、令和6年4月分(令和6年6月振込分)からの改定額

1級 1,020,000円/年(昭和31年4月1日前生まれの方:1,017,120円/年)
2級 816,000円/年(昭和31年4月1日前生まれの方:813,700円/年)
3級 612,000円/年(最低保障)

※1 報酬比例はこちら
※2 対象者の方がいる場合
配偶者の加給年金
子の加算 
  
※3 障害手当金 (報酬比例額の年金額✕2)を一時金として支給
最低保障額 1,224,000円(昭和31年4月1日以前に生まれた方は1,220,600円)

相談窓口は?

障害年金を請求することを考えたら、まずは主治医や身近な医療従事者に相談してみましょう。障害年金の相談窓口には、年金事務所をはじめ、下記のようなものがあります。いずれの窓口でも、がん患者さんの障害年金の請求について経験豊富な人に相談できるのがベストです。がん患者会などの口コミ情報も活用し、是非、信頼できる相談先を見つけてください

年金事務所、街角の年金相談センター

全国各地にあります。最寄りの年金事務所や街角の年金相談センターは日本年金機構のホームページでも検索できます。
こちらから相談の予約もできます。

医療ソーシャルワーカー

全国のがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院に設置されているがん相談支援センターや病院の医療連携推進部に行けば、医療ソーシャルワーカーに相談することができます。自身の通っている病院以外の窓口でも相談可能です。

社会保険労務士(社労士)

自身で手続きを進める代わりに、社労士さんにお願いするという方法もあります。HPで探すこともできますが、お住まいの地区の社労士会でがんの障害年金に詳しい社労士さんを紹介してもらうこともできます。NPO法人障害年金支援ネットワークでも社労士さんを紹介しています。

 

がんライフアドバイザー

がんライフアドバイザーのいる病院では、資格を持つ医療従事者に相談をすることも可能です。全国のがんライフアドバイザーのいる病院一覧は下記をご参照ください。
※一般社団法人がんライフアドバイザー協会

がん患者会:

全国にさまざまながん患者会が活動しています。病院やHPなどお近くのがん患者会を調べて相談してみると、障害年金に関する経験談が聞けたり、社労士さんを紹介してもらえたりすることがあります。

請求方法は?

障害年金を受給するためには、請求の手続きが必要です。最寄りの年金事務所やお住まいの市(区)役所、町役場が窓口となります。

請求の流れ

まずは、

  1. 障害年金の要件に当てはまるかチェックしましょう
  2. 発病から現在までの病状や通院歴など病歴の確認しましょう

請求の流れの図
※こちらをクリックすると拡大表示できます