患者さんにとって、障害年金も含めたよりよい選択をサポート

慶應義塾大学病院 医療連携推進部/がん相談支援センター 久住真有美さん

患者さんの自律を支えるのがソーシャルワーカー

医療ソーシャルワーカーは、病気に伴って生じる心配事をメインにさまざまな相談に対応します。病院の中で社会福祉の立場から、患者さんや家族の抱えるとりわけ経済的問題を含む心理社会的課題に対して、患者さんやご家族自身が自分で乗り越えて解決できるように、また治療・療養と社会生活を両立できるようにサポートすることが役割です。病院の医療連携室、患者サポートセンター、がん相談支援センターなどの相談窓口にいます。

患者さんから相談を受けてサポートをスタートするだけでなく、医療ソーシャルワーカーから患者さんに障害年金をご紹介することもあります。一例として、移植後の慢性GVHDのある血液がんの患者さんのケースでは、医師と連携した上で患者さんに情報提供をし、一緒に請求手続きを進めました。以前、慢性GVHDによる障害は個々の臓器障害として申請していましたが、2017年に「慢性 GVHD」として障害年金に加わった項目ですので、年金事務所の窓口がご存知なかったという経験をした患者さんも。障害年金のことは正しい情報が広く知られていないという課題もありますので、患者さんも正しい知識を持つことが重要です。

障害年金においても他の相談同様に、困難なところはサポートし、基本はご自身で請求ができるように進めていきます。私たちの相談窓口に来られた患者さんは、ご自身でやらなくてはならないことが多いので大変な面もあるかと思いますが、特に若い患者さんであれば、障害年金に限らず、これからいろいろな申請や手続きをこなしていかなくてはなりません。自身で知識を身に付けて、対応できる力を付けていただけるように、医療ソーシャルワーカーとしてサポートしています。一方、より幅広く専門で複雑な対応が必要な場合には、社会保険労務士さんとファイナンシャルプランナーさんの無料相談のご紹介もしています。

医師とのコミュニケーションもサポート

障害年金の請求には医師の協力が不可欠ですので、医師とのスムーズなコミュニケーションにも配慮しています。医師は検査データ上の副作用はしっかり把握していますが、診察室では見えない、患者さんの日常生活で出ている副作用、目に見えない支障のことを100%把握することは難しいもの。そこで、患者さんに付箋で日常生活上や働く上での困難を書いていただき、診断書の書式に貼って医師に渡すなどの工夫をしています。時には、付箋よりも、患者さんご自身が診察室で自身の言葉として伝えたほうがより伝わることもあります。診察室に同席して、サポートすることもあります。

患者さんにとってベストな選択のために

人工肛門といった目に見える障害はわかりやすく障害年金の請求が通りやすいですが、倦怠感といった他者からはわかりづらい症状は、障害年金の「診断書」や申請者が記載する「病歴・就労状況等申立書」に正しく状態を記載できるかがポイントとなります。時には、表現の工夫や、障害年金の一般状態区分に合わせて可視化できる方法などを一緒に考えることがあります。患者さんにも一般状態区分のコピー等正しい情報をお渡しし、ご自身が障害年金の受給対象に該当するのか、ご確認いただくようにしています。
また、障害年金の相談に来られる方は、傷病手当金の受給をされている方が多いので、傷病手当金と障害年金の金額を比較し、どちらにメリットがあるのかを考慮した上で、傷病手当金の期限が終わってから、障害年金に切り替えるといった提案もしています。

まずは院内の信頼できる方、主治医のこともあれば看護師さんであることもあれば相談窓口であることもあるかと思いますが、第一歩を踏み出しやすいところを相談の糸口にされることをおすすめします。障害年金はがんになればみんなが受給できるというようなものではありませんので、障害年金に限らず、傷病手当金などさまざまな制度がある中で、何がベストかを患者さんと一緒に考えていけたらと思っています。