医師からのメッセージ「がん専門医にも知ってほしい、がん患者さんの障害年金のこと」

日本医科大学 武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授 
勝俣範之先生

あまり知られていないがん患者さんの障害年金用診断書の書き方

10年ほど前に患者さんから診断書の作成を依頼されたことが障害年金を知るきっかけでした。それまでがん患者さんが障害年金を請求できることも知らなければ、診断書を書いたこともありませんでした。がんの専門医でもがん患者さんの障害年金の診断書作成の経験に乏しいのが実情です。大変複雑で「二度と書きたくない」とすら思った診断書でしたが、私の場合は、障害年金に詳しい社労士さんと出会い、アドバイスを受けながら書くことができました。社労士さんは強い味方ですが、実はがんの障害年金に詳しい社労士さんが少ないという課題もあります。社労士に限らず、医療ソーシャルワーカーや年金事務所など関連する窓口が必ずしも情報に精通していないということががん患者さんの障害年金の受給のハードルとなっている側面も否めません。

障害年金の診断書の鍵は、医師が知らない患者さんの日常の困りごと

障害年金を受給できるかどうかは、医師の診断書が一番の鍵を握っています。しかしながら、障害年金の診断書は、診断書の中でも最も難しいといってよいほど書くことが大変なものです。通常の診断書は基本的には医学的に客観的なデータを記載しますが、障害年金では患者さんの生活面、症状が生活面でどのくらい支障があるかを記載することが重要です。食事が作れない、掃除ができない、電車に乗れない、階段が昇れない、散歩に行けない、犬の世話ができない、子どもの世話ができない…といった、障害年金の請求で最も肝心な生活の細かな支障に関することは、診察室ではあまり語られません。医師はそうした情報を軽く見る傾向にあるという研究結果もあります。そこで、医療ソーシャルワーカーさんや社労士さんが患者さんから聞き出して医師に共有してくれると助かります。

診断書の余命は必須項目。患者さんがショックを受けない配慮を!

障害年金の診断書の様式はがん患者さん専用にはできておらず、記載すべき項目と必要のない項目がわかりづらく、複雑です。余命を書く欄がありますが、余命は書いたほうが受給の可能性が高まります。ただし、患者さんがショックを受けないように、「余命は不確かなものだけれど、最悪のことを想定して余命を書くことで受給につながりやすくなる」ということを患者さんに事前に伝えることも大切です。

医師からも障害年金の情報発信を

10年前からがん患者さんの障害年金を取り巻く状況は大きくは変わっておらず、まだあまり知られていません。近年のがん医療は尋常ではなくお金がかかりますし、がんやその治療に伴い日常生活や仕事に支障が出ている患者さんにとって障害年金は大きな支えになります。日常生活や働くことに困難を抱える患者さんがいらっしゃった場合には、医師から障害年金の情報を提供することも必要なことだと思っています。

障害年金はがんの患者さんも受給する権利がある制度ですので、患者さんは医療ソーシャルワーカーや社労士さんなどの協力も仰ぎながら、主治医に相談してみてください。

がんの専門医には、がん患者さんが障害年金を請求できることを必須知識として知っていてほしいですし、キャンサーネットジャパンの「医師向け がん患者さんの障害年金請求のための診断書作成ガイドブック」も参考にぜひ患者さんのために適切な診断書を書いていただけたらと思います。