すい臓がんの手術療法
Q.すい臓がんではどのような手術が行われますか
A.手術は最も治療効果の高い治療法です。
手術法には、膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、膵全摘があり、がんの位置や広がり方によって決められます。
手術の適応は、すい臓周囲の動脈や離れたリンパ節、ほかの臓器への転移、腹膜播種(お腹の中にがんが広がっている状態)がなく、手術に耐えられる体力がある場合です。
すい臓がんの手術法には、膵頭十二指腸切除(図表6)、膵体尾部切除(図表7)、膵全摘の3種類があります。どの手術法を選ぶかは、がんのできた場所によって決まります。
切除手術に先立ち腹腔鏡検査を行い、レントゲン画像で写りにくい微小な転移の有無を確認します。その際、腹腔洗浄細胞診を実施し、陽性の場合は、手術をせずに先に薬物療法を行います。腹腔洗浄細胞診は、すい臓や胃などがある腹腔に生理食塩水を入れて洗浄し、その洗浄水内のがん細胞の有無を確認する検査です。ほかの臓器への転移を疑うすい臓がんでは必要な検査です。
●膵頭部のがん
がんが膵頭部にあるときには、膵頭部とその周囲のリンパ節、十二指腸、胆のう、胆管を取り除く膵頭十二指腸切除を行います。膵頭部は十二指腸、胆管とつながっているため、すい臓だけではなく、これらの臓器をひとかたまりとして切除する必要があります。がんの発生した場所や広がり方によっては、胃の一部も切除します。この膵頭十二指腸切除では、小腸(空腸)と残った胆管、すい臓、胃をつないで、食べ物と膵液、胆汁の通り道を再建します。大がかりな手術で、再建手術まで含めると6~8時間かかります。
また、すい臓の裏には肝臓に栄養を送る門脈という太い血管が走っています。その血管までがんが広がっていたときには、門脈の一部と膵頭部を一緒に切除し、血管をつなぎ直す門脈合併切除・再建を行うこともあります。
●膵体部・膵尾部のがん
がんが膵体部、膵尾部にあるときには、膵頭部のみ残してすい臓とその周囲のリンパ節を切除する膵体尾部切除を行います。一般的に、脾臓も一緒に取り除きます。がんの大きさや場所によっては、膵尾部とその周囲のリンパ節のみ切除する場合もあります。
●膵全摘術
がんがすい臓全体に広がっている場合には、すい臓全部と十二指腸、胆管の一部、胆のうを切除する全摘手術が行われます。全摘するのは深刻な状態だからではなく、がんの位置のためで、治癒する可能性の高い人に適した手術法です。すい臓と十二指腸、胆管の一部を切除した後は、小腸と残った胆管、胃をつないで、食べ物と胆汁の通り道を再建します。
●腹腔鏡手術とロボット手術
膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除では、周囲の臓器や主要な血管にがんが広がっていなければ、腹腔鏡手術やロボット手術が選択肢になります。どちらも、腹部に5~6か所の小さな穴を開け、そこから小型カメラや手術器具を挿入し、モニターを見ながら操作を進める手術法です。
ロボット手術では、手術支援ロボットを用います。腹腔鏡手術とロボット手術のメリットは、手術による傷が小さく術後の回復が早いこと、デメリットは開腹手術に比べて手術時間が長くなる傾向があることです。
操作を誤ると危険な場合があり、すい臓がんの腹腔鏡手術、ロボット手術の経験が多く、学会の認定を得た医師のいる病院で受けるべき手術です。腹腔鏡・ロボット手術に固執せず、安全で確実な手術を実施できる病院を選びましょう。
●手術の合併症
すい臓がんの手術の合併症で最も怖いのは、縫い合わせたところから膵液がお腹の中に漏れる膵液瘻(すいえきろう)と、再建した消化管から胆汁が漏れる胆汁瘻(たんじゅうろう)です。どちらも発熱、腹痛といった症状が出ます。多くの場合は、しばらく絶食すれば回復しますが、腹腔内出血を起こすこともある危険な合併症です。
すい臓がんの手術は高度な手術であり、症例数が多い病院で治療を受けたほうが、合併症を起こすリスクは低くなります。日本肝胆膵外科学会ホームページ※では、すい臓がん手術などの症例数が多い高度技能専門医認定指定修練施設を公開しています。都道府県別に検索でき手術が可能かの判断やセカンドオピニオンも修練施設で受けるとよいでしょう。
※http://www.jshbps.jp/modules/public/index.php?content_id=5
●術前・術後の膵酵素補充と糖尿病対策
膵頭十二指腸切除を受けると、胃の動きが悪くなるため、食後に胃もたれを起こし食欲減退を生じやすくなります。脂肪吸収力が弱まるので、下痢をしたり、肝臓に脂肪がたまって脂肪肝になることもあります。
膵頭十二指腸切除や膵全摘を受けたとき、膵体尾部切除でも食欲不振がみられるときには、膵消化酵素補充薬パンクレリパーゼを服用することが重要です。一度にたくさん食べられなければ、食事の回数を増やして少しずつ食べるようにするとよいでしょう。なお、すい臓は血糖値を調整する役割も果たしています。膵全摘を受けた場合や糖尿病が悪化したときには、インスリンの投与が必要です。
コンバージョン手術とは
診断時には「切除不能」と判断されたけれども、薬物療法や化学放射線療法によってがんが縮小したことで方針が変わり、実施される手術をコンバージョン手術と呼びます。
すい臓がんでは薬物療法の進歩によって腫瘍が縮小し、「切除可能性分類」(すい臓がんの病期(ステージ)図表4)などで再評価を行った結果、コンバージョン手術を受けられる患者さんが増えています。
ただし、コンバージョン手術が可能かどうかの判断基準やどのくらいの期間薬物療法を続けてからコンバージョン手術を行うのがよいのかなどについてはまだ議論のあるところです。
手術が可能かどうかはコンバージョン手術の経験がある専門施設で相談しましょう。難度の高い手術であるため、コンバージョン手術を多く実施している病院で受けることが大切です。
参考資料
もっと知ってほしいすい臓がんのこと 2023年版,pp.8-9