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すい臓がんの薬物療法

Q.すい臓がんの薬物療法について教えてください

A.ほかの臓器に転移があるために手術ができない人や再発した場合には、薬物療法を行います。


●切除可能な人の術前の薬物療法

 Ⅰ期、Ⅱ期で手術可能と判断された人は、ゲムシタビンとS-1(※TS-1と呼ばれることもある)を併用するGS療法でがんを抑えてから手術を行うことを提案されています。ゲムシタビンを1日目と8日目、S-1を1~14日投与した後、7日間休薬し3週間で1コース。これを2回繰り返します。

●術後の薬物療法

 術後の薬物療法は、手術でがんを取り除いても体に残っているかもしれない目にみえないくらいの微小ながんをたたき、再発リスクを減らす治療法です。Ⅰ期とⅡ期のすい臓がんでは手術後の薬物療法は必須です。術後は、内服薬のS-1を1日2回4週間服用し、2週間休薬して6週間で1コース、これを4コース繰り返すのが標準治療です。下痢をしやすいなど、S-1を使えない人はゲムシタビン単独療法を行います。

●切除可能境界の人の薬物療法

 まずは化学療法か化学放射線療法を受けて再評価をしますが、切除可能境界の人にとって、何がベストな治療かは、世界的にもはっきりわかっていない面があります。再度、薬物療法を選択する場合は、ほかの臓器に転移がある人の1次治療に準じた治療を実施します。

●ほかの臓器に転移がある人の第一選択

 ①FOLFIRINOX療法、②ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法のどちらかが第一選択です。FOLFIRINOX療法は、オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル(5-FU)、レボホリナートカルシウムを併用する治療法です。

 全身状態、体力、併存疾患などによって、①②の薬物療法を受けるのが難しい場合には、③点滴で投与するゲムシタビン単独療法、④内服薬のS-1単独療法のどちらかを選択します。病院によっては、③と④を併用、③とエルロチニブを併用する場合もあります。

 どの治療法を受けるかは、患者さん本人の希望、生活スタイル、全身状態、年齢などによって決まります。それぞれの治療法の利点と欠点、副作用の説明を聞き、担当医とよく相談して、納得して選ぶようにしましょう。(すい臓がんの薬物療法の副作用 図表9)

 ①のFOLFIRINOX療法は、イリノテカン(150mg/㎡)、オキサリプラチン(85mg/㎡)、レボホリナートカルシウム(200mg/㎡)をあわせて4時間かけて点滴した後、5-FU(2400mg/㎡)を46時間持続静注投与する治療法です。その後12日間は休薬して2週間で1コース、これを繰り返します。
持続静注は、中心静脈カテーテル(CVポート)を鎖骨下などに埋め込み、携帯型精密輸液ポンプをつなげて、持続的に薬を投与する方法です。

 ②は、ゲムシタビン(1000mg/㎡)とナブパクリタキセル(125mg/㎡)を1週間に1回、3週間投与し、1週間休薬して1コース。これを繰り返します。

 ③のゲムシタビン単独療法では、週1回、ゲムシタビン(1000mg/㎡)30分、制吐剤など30分で合計約1時間点滴投与する薬物療法を3週間行い、1週間休薬して4週間で1コースになります。つまり、1日目、8日目、15日目にゲムシタビンの投与を受け、22日目は休薬するパターンを繰り返します。

 ④のS-1単独療法は、内服薬のS-1を1日2回4週間服用し、2週間休薬して6週間で1コース。S-1は身長と体重から割り出される体表面積に応じて、1回40~60mg服用します。飲み薬なので、長時間点滴を受ける必要がないのが利点ですが、下痢などの消化器症状が出やすいため、もともとそういった症状がある人や薬の飲み忘れが多い人、腎機能障害がある人には不向きな治療法です。

●切除不能局所進行がんの人の第一選択

 局所進行がんで手術ができず、薬物療法を受ける場合には、①②③④の4種類の薬物療法の中から1つを選択します。病院によっては、③と④を併用する場合があります。

●膵神経内分泌腫瘍の薬物療法

 手術ができない膵神経内分泌腫瘍(悪性度の低いもの)に対しては注射薬のランレオチド、または、内服薬のスニチニブかエベロリムスの使用が推奨されます。また、点滴薬のストレプトゾシンも選択肢の1つです。ホルモンが過剰に産出される症状が出ているときには、スニチニブかエベロリムスに注射薬のランレオチドかオクトレオチドを併用することもあります。

 さらに、放射線(β線)を放出する放射性物質と結合したルテチウムオキソドトレオチドを点滴投与するペプチド受容体核医学内用療法(PRRT)も新たな治療選択肢となっています。ルテチウムオキソドトレオチドは、神経内分泌腫瘍の表面にある受容体(たんぱく質)に結合し、腫瘍の内部で微量の放射線を放出して腫瘍の増殖を抑える放射性医薬品です。PRRTでは放射性物質が尿などに排出されるため、放射線内用療法専用の病室がある病院に入院して行います。

 膵神経内分泌がんについては、シスプラチンとイリノテカン、シスプラチンとエトポシドの併用療法などを行うのが一般的です。

●ほかの臓器に転移がある人の二次治療

 最初に選択した薬物療法の効果がなくなった場合には、薬を変更して2次治療を行います。2次治療は、1次治療でどのような薬を使ったか、がんの組織に特殊な遺伝子変異があるかどうかなどによって選択します。

 1次治療で②③のように、ゲムシタビンを含む治療を受けていた人は、イリノテカンリポソーム製剤と5-FU、レボホリナートカルシウムの併用療法か①または④が選択肢になります。

 イリノテカンリポソーム製剤は、抗がん剤のイリノテカンをリポソーム(脂質の膜のようなもの)で包み込むことで、より多くのイリノテカンを効率的にがん細胞に届けることを期待して設計された新しいタイプの抗がん薬です。イリノテカンリポソーム製剤(70
mg/㎡を90分投与)、5-FU(2400㎎/㎡を46時間持続投与)、レボホリナートカルシウム(200㎎/㎡を2時間投与)の併用療法は、2週間おきに点滴で投与します。

 1次治療で①か④だった人は、②のゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法か、③のゲムシタビン単独療法が2次治療の選択肢になります。

●BRCA1/2遺伝子変異のあるすい臓がん

 1次治療が始まる前、あるいはその治療中にBRCA1/2遺伝子検査を受け、陽性(BRCA1かBRCA2遺伝子に変異がある)と診断された場合、PARP阻害薬のオラパリブの使用を検討します。オラパリブは、プラチナ系抗がん薬のオキサリプラチンを含むFOLFIRINOX療法などにより、一定期間病気の勢いが抑えられたBRCA遺伝子変異陽性すい臓がんの進行を防ぐ維持療法として、有効性が示されている内服薬です。1回300㎎を1日2回内服します。
 BRCA遺伝子は、DNAの傷を修復して細胞のがん化を防ぐ遺伝子で、変異が生じるとすい臓がん、乳がん、卵巣がんなどのがんを発症しやすくなります。すい臓がんでBRCA1/2遺伝子に変異のある患者さんは4~7%と推計されます。BRCA1/2遺伝子変異は遺伝による場合と、遺伝とは関係なく後天的に何かのきっかけで生じる場合があります。

●遺伝子パネル検査で選択肢が変わる場合も

 1次治療が効かなくなったときには、がん遺伝子パネル検査(コラム参照)を受け、その結果によって治療法を選ぶという選択肢もあります。
 NTRK(エヌトラック)融合遺伝子がみつかった場合には、TRK阻害薬のエヌトレクチニブ、またはラロトレクチニブによる治療を検討します。この2つの薬はNTRK融合遺伝子を有するがん細胞の増殖を抑える内服薬です。
 ただし、すい臓がんのうち、NTRK融合遺伝子陽性のがんは1%未満と、かなりまれです。その他の遺伝子の異常がみつかったときには、臨床試験への参加が選択肢になることもあります。

がん遺伝子パネル検査

 次世代シークエンサー(NGS)と呼ばれる遺伝子解析装置を用いて、多数の遺伝子異常の有無を一度に測定する検査です。がんゲノム医療とも呼ばれます。
 公的医療保険で受けられるがん遺伝子パネル検査には、124個の遺伝子異常を調べる「オンコガイド(OncoGuide)NCCオンコパネルシステム」と324個の遺伝子異常を調べる「ファンデーションワン(FoundationOne)CDxがんゲノムプロファイル」「ファウンデーションワンリキッドCDxがんゲノムプロファイル」の3種類があります。
  がん遺伝子パネル検査では基本的に手術や生検で採取したがんの組織を用いますが、十分な組織が得られなかった場合や、ほかの遺伝子パネル検査で解析ができなかった場合には、血液を用いるファウンデーションワンリキッドCDxがんゲノムプロファイルで遺伝子異常の有無を調べます。
 がん遺伝子パネル検査は、がんゲノム医療中核拠点病院か同拠点病院、同連携病院(※がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院の一覧表)でのみ受けられる検査です。ほかの病院で治療を受けている場合には紹介状を持参し、この検査が受けられる病院を受診する必要があります。
 ただし、 がん遺伝子パネル検査によって治療法がみつかる患者さんは、すべてのがん種を合わせても10%程度、すい臓がんではさらに少ないとされ、まだ限定的です。また、この検査を受けることに同意をしてから結果が出るまでには4~6週間かかりますので、その間は、別の薬物療法による治療を検討します。

●MSI-High・TMB-Highがん

 マイクロサテライト不安定性(MSI)検査は、手術や生検によって採取したがんの組織を用いて、細胞分裂の際に生じるDNAの複製ミスを修復するミスマッチ修復機能が低下しているかを調べる検査です。マイクロサテライト不安定性検査や遺伝子パネル検査でMSI-Highと診断された場合には、免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブ単独療法が選択肢になります。また、遺伝子パネル検査で腫瘍遺伝子変異量(TMB)が高いTMB-Highがんだとわかった場合にも、ペムブロリズマブが使えます。
 MSH-Highがん、TMB-Highがんに対するペムブロリズマブは、1回200㎎を3週間に1回点滴投与します。
 MSI-Highの場合には、ミスマッチ修復遺伝子の異常によって大腸がんや子宮体がんなどになりやすいリンチ症候群である可能性があります。その割合は米国のデータによると約16%です。ペムブロリズマブによる治療を検討すると同時に、リンチ症候群かどうかを調べ、場合によっては遺伝カウンセリングを受ける必要があります。

家族性すい臓がん

 すい臓がんの患者さんのなかには、遺伝的にすい臓がんやほかのがんを発症しやすい体質をもっている人がいます。すい臓がんの発症リスクが高くなる症候群には、ポイツ・シェガース症候群(原因遺伝子:STK11/LKB1)、遺伝性膵炎(PRSS1)、家族性異型多発母斑黒色腫症候群(CDKN2A/p16)、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(BRCA1/2)、リンチ症候群(ミスマッチ修復遺伝子)、家族性大腸腺腫症(APC)などがあります。ポイツ・シェガース症候群は消化器がん、婦人科がん、乳がんなど、家族性異型多発母斑黒色腫症候群は皮膚がんの一種である黒色腫、リンチ症候群は大腸がん、子宮体がん、胃がんなどを発症しやすい体質です。
 すい臓がんの治療の過程でこういった遺伝性の症候群であることがわかったとき、あるいは血縁者に複数のすい臓がんの人がいる場合には、遺伝カウンセリングの受診を検討しましょう。遺伝カウンセリングでは、家族が同じ遺伝子異常を受け継いでいるかどうか調べることや、早い段階でがんを見つけるためにどのような検査を受ければよいのかなどを相談できます。遺伝カウンセリングを受けられる病院は、全国遺伝子医療部門連絡会議の「遺伝子医療実施施設検索システム」で調べられます。(http://www.idenshiiryoubumon.org/search/)

臨床試験とは?

 新薬や治療法を開発するために、人を対象に有効性と安全性を科学的に調べるのが「臨床試験」です。臨床試験には第1相:安全性の確認、第2相:有効性・安全性の確認、第3相:標準治療との比較による有効性・安全性の総合評価の3段階があります。現在の標準治療も過去の臨床試験で有効性や安全性が認められたものです。すい臓がんの分野でも、現在の標準治療より、さらに効果と安全性の高い治療法の確立を目指して複数の臨床試験が行われています。臨床試験への参加は未来の患者さんに貢献することにもつながっています。
 現在実施されている臨床試験の中に、自分が受けられるものがあるかどうかは、担当医に聞くのがベストですが、国立がん研究センターのがん情報サービスの「がんの臨床試験を探す」で検索することもできます(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/search2.html)。
 また、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターで、情報を得ることもできます。

アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:人生会議)

 今後の治療や療養の仕方、人生の最終段階のケアなどについて、患者と家族が、医療従事者や介護従事者と一緒に自発的に話し合うプロセスをアドバンス・ケア・プランニング、あるいは人生会議といいます。
 病気と闘っているときには考えたくないことですが、病状が進行すると、患者さん自身が自分の意思を伝えられなくなる場合があります。病状が安定しているうちから、自分がいま最優先したいことは何なのか、どのような治療を受けたいのか、もしも病状が進行したときにはどこで誰と過ごしたいのかなどを考え、それを家族や身近な人、治療を受けている病院の医療チームなどに伝えておくことが大切です。例えば、「無理な延命治療はしてほしくない」など、自分がしてほしくないことを身近な人や医療従事者に伝えておきましょう。
 考えたくないなら、病状が進んだときの話をあえてする必要はありませんし、すぐに決められなければ、じっくり考えればよいことです。
 病状が安定しているときと、具合が悪くなったときとでは考え方が大きく変わる人もいます。治療をいつまで続けるか、最終的な療養場所、延命治療をどこまでするかなどの希望は、いつでも変更できます。
 アドバンス・ケア・プランニングは、もしものときに納得のいく治療・療養を受けるための取り組みです。患者さん自身が望む治療や療養を提供するために、アドバンス・ケア・プランニングに取り組む病院も出てきています。

参考資料

もっと知ってほしいすい臓がんのこと 2023年版,pp.10-13

公開日:2022年1月21日 最終更新日:2023年2月15日

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