卵巣がんの薬物療法
Q.手術後、どのような薬物療法が行われますか
A.卵巣がんは抗がん剤や分子標的薬がよく効くため、手術後に抗がん剤などを投与する薬物療法を行うのが基本です。
2種類以上の薬剤を組み合わせて、がんの進行や再発を防ぎます。
●TC療法は全体の約7割で効果
薬物療法の初回治療では、ごく早期の人を除いて、手術後に抗がん剤のパクリタキセルとカルボプラチンの2剤を3週間ごとに3~6サイクル点滴注射するTC療法が標準治療です。
標準治療とは、国内外の複数の臨床試験の結果をもとに専門家の間で検討され合意が得られている、現時点で最も効果が高い最適な治療法のことです。
TC療法には再発予防効果があり、手術でがんを取りきれなかった人でも約7割の患者さんのがんが縮小し、生存期間の延長が証明されています。手術後の薬物療法は、各施設の状況によりますが、基本的に入院せずに外来で行われます。TC療法の点滴時間は、副作用の予防薬や生理食塩水の投与を含め約5時間です。
日本で行われた臨床試験において、パクリタキセルを毎週投与して、全体の投与量を増やすdose-denseTC療法が、一般的なTC療法より再発しにくく生存期間も延長したことから、dose-denseTC療法も有力な選択肢の一つになっています。dose-denseTC療法では、パクリタキセルの点滴を週1回行い、カルボプラチンを3週間に1回点滴して1サイクルとなり、これを6~9サイクル続けます。
また、TC療法に分子標的薬のベバシズマブを併用すると、TC療法単独よりも再発が抑えられることがわかっており、初回薬物療法の選択肢の一つとなっています。ベバシズマブは、がん細胞に酸素や栄養を送る新しい血管がつくられるのを邪魔して、がんの増殖を抑える血管新生阻害薬と呼ばれる分子標的薬です。
TC療法にベバシズマブを併用する場合には、パクリタキセル、カルボプラチン、ベバシズマブを3週間ごとに3~6回点滴投与した後、3週間に1回ベバシズマブを点滴します。ベバシズマブの単独投与は16サイクル、あるいはそれ以上続けたほうが再発を抑えられることがわかっています。
TC療法とベバシズマブを併用したときの点滴時間は、吐き気止めや生理食塩水の投与時間も含めて6~7時間、ベバシズマブ単独のときは1~2時間程度です。この治療もやはり、一般的には外来で行われます。
ベバシズマブを使った場合、頻度は低いものの胃や腸に穴があく消化管穿孔が起こる恐れがあります。そのため、手術創が治りにくくなることを考慮して、ベバシズマブは術後2回目以降から併用することが多くなっています。
●TC療法以外の選択肢
TC療法が行えない場合には、ドセタキセルとカルボプラチンを併用したDC療法が候補になります。長期的な予後はわかっていないものの、短期的にはTC療法とほぼ同等の効果があるとされています。
DC療法を行う場合でもベバシズマブを併用することがあります。
このように、初回薬物療法には、複数の選択肢があります(図表10)。効果、外来化学療法を受ける頻度、治療期間、費用、出やすい副作用などは薬物療法の種類によって異なりますし、どの治療法にもメリットとデメリットがあります。自分のライフスタイルや価値観によって、どれを選ぶのか、担当医とよく相談して決めるようにしましょう。
なお、明細胞がんと粘液性がんの場合、現時点での標準治療はTC療法です。
卵巣がんの維持療法
がんの手術や薬物療法を終えた後、再発や増悪の予防を目的として、薬物療法を一定期間続ける「維持療法」が行われることがあります。
卵巣がんでは、抗がん剤を用いる維持療法は行われません。ただし、がんが骨盤を越えて広がっているⅢ期とⅣ期の患者さんで、初回の治療でベバシズマブを併用する抗がん剤治療(TC療法など)で効果があった場合に、ベバシズマブを単剤で12~16サイクル追加する維持療法が行われます。
また、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントがあるⅢ期とⅣ期の患者さんで初回治療で効果があった場合に、PARP阻害薬のオラパリブやニラパリブを約2年間服用する維持療法も行われています。
さらにベバシズマブとPARP阻害薬を併用して維持療法を行う場合もあります。なお、オラパリブは、HRD検査で相同組み換え修復欠損があると判断された場合に使えます。
再発後には、再発までの期間が6か月以上あり、かつ初回に抗がん剤のプラチナ製剤を使用した場合にオラパリブとニラパリブが維持療法で用いられます。
参考資料
もっと知ってほしい卵巣がんのこと 2021年版,pp.13-14