乳がんの放射線療法
放射線療法はどのようなときに必要ですか
放射線療法は、細胞の増殖に必要な遺伝子に作用してがん細胞にダメージを与え、死滅させる局所療法です。手術後の放射線療法の目的は、温存した乳房や、乳房切除後の胸壁や周辺のリンパ節からの再発を防ぐことです。
乳房部分切除術を受ける人は、術後に放射線療法を受ける必要があります。乳房部分切除術では、切除した組織の断面およびその近くにがん細胞が残らない(断端陰性)ように、腫瘍とその周辺を取り除きます。それでも、目に見えない微小ながん細胞が乳房内に残っている危険性があり、放射線療法でそういった微小ながん細胞を死滅させて根絶やしにする必要があるのです。
乳房温存療法の一環である放射線療法は、温存乳房に1回2.0グレイを23~25回、合計46~50グレイを5週間かけて照射します。1回の照射線量を2.5~2.75グレイに増やし治療回数を15~20回に減らす寡分割照射でも、1回2.0グレイの場合、同等の効果が得られることがわかっています。腋窩リンパ節に転移が多数あった人は、鎖骨上窩(首のつけ根の鎖骨の上の部分)のリンパ節も併せて放射線をかけます。
1回の照射時間は1~3分程度なので、放射線治療の期間中でも、仕事など通常の生活が続けられます。1度にたくさんの放射線を照射しないのは、正常細胞への影響を最小限にとどめるためです。
乳房全切除術でも、腋窩リンパ節に4個以上転移があった場合や腫瘍が5㎝以上だった場合は、薬物療法のほかに放射線療法を行うと再発のリスクを下げられます。また、腋窩リンパ節転移が1~3個でも、放射線療法が勧められることがあります。放射線は、腫瘍のあった側の胸壁と鎖骨上窩に1回2.0グレイを23~25回、合計46~50グレイを5週間かけて照射します。
放射線は目に見えず、痛くも熱くもありませんが、治療中、または治療終了後数か月以内の副作用として、倦怠感、皮膚炎、放射線肺臓炎を生じることがあります。薬物療法と放射線療法の両方を受ける必要があるときは、抗がん剤治療が終わって副作用がある程度落ち着いた時点(1か月後ぐらい)から放射線療法を開始します。放射線療法は、骨転移などの局所的な痛みの軽減にも有効です。
臨床試験とは?
新しい薬や治療法の人間に対する有効性や安全性について調べるために行われるのが「臨床試験」です。現在、使われている薬や標準治療は、国内外で臨床試験を重ねることで開発、確立されたものです。
臨床試験には、数人を対象に安全性をみる「第Ⅰ相試験」、数十人を対象に効果と安全性をみる「第Ⅱ相試験」、数百人を対象にすでに承認されている薬と新薬の候補、あるいは、標準治療と新治療の候補を比較して効果と安全性をみる「第Ⅲ相試験」の3段階あります。臨床試験は医療の発展に不可欠であり、試験への参加は将来の患者さんを助けることになります。ある程度よいとわかっている薬や治療法が早く使える利点がある場合もありますが、予期せぬ副作用が出る危険性もあります。臨床試験への参加を検討するときには、試験の段階、目的と方法、利点やリスクをよく確認することが大切です。
参考資料
もっと知ってほしい乳がんのこと 2023年版,p.12