慢性リンパ性白血病の造血幹細胞移植
Q.造血幹細胞移植について教えてください
A.血液細胞のもととなる造血幹細胞を移植し、CLLを完治させる可能性のある治療法です。
体への負担や副作用が大きいため、移植の実施やその方法の選択は、患者さんごとに慎重に検討する必要があります。
造血幹細胞移植は、CLLの完治を目的として行う治療です。大量の抗がん薬投与と放射線照射によって異常なB細胞を最小限にする前処置を行った後、造血幹細胞を移植して患者さんの造血機能を回復させます。
造血幹細胞移植には、ドナー(提供者)の造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植(同種移植)と、あらかじめ採取して保存した本人の造血幹細胞を抗がん薬投与や放射線照射後に移植する自家移植があります。CLLに対する自家移植は推奨されません。ただし、リヒター症候群ではアグレッシブリンパ腫の治療として自家移植が行われることがあります。
CLLに対する同種移植の対象になるのは、Fitで17p欠失かTP53遺伝子の変異や欠失がある、あるいはこれらの異常がなくても早い時期に再発した場合です。移植を実施するか否かは、年齢、合併疾患の有無、全身状態など個々の患者さんの状態に応じて判断します。
同種移植の方法には、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の3種類があります(図表8)。最もよく行われる骨髄移植に比べ、末梢血幹細胞移植は移植後の造血機能、免疫機能の回復が早いのが利点ですが、合併症である急性の移植片対宿主病(GVHD、後述)のリスクが比較的高くなります。また、臍帯血移植はGVHDは比較的軽いものの、移植後の造血幹細胞の生着が遅いのが欠点です。
造血幹細胞移植では、通常の抗がん薬治療よりも強い副作用が出たり、感染症やGVHDを発症したりするリスクがあります。GVHDは移植片の中にあるドナーのリンパ球が患者さんの体をよそ者とみなして攻撃するために、皮膚、肝臓、腸などに起こる合併症です。口腔内の痛みや違和感、眼や皮膚の乾燥、下痢など慢性GVHDを発症する人もいます。
近年、主に56歳以上の人に対して「ミニ移植」(強度減弱前処置)が行われるようになってきました。前処置の抗がん薬投与と放射線照射を少なくして副作用を軽減させ、ドナーの細胞が白血病細胞を攻撃する移植片対白血病効果(GVL効果)を促す方法です。ただし、やはりGVHDや感染症になるリスクはあるので、そのことを知ったうえで検討する必要があります。
再発難治CLLに有効な分子標的薬の使用で、造血幹細胞移植を受ける人は減りつつあります。実施については担当医とよく相談しましょう。
移植にはHLAの一致が必要
HLAはヒト白血球抗原のことで、白血球の型を示します。同種造血幹細胞移植ではA座、B座、C座、DR座という4座(8抗原)のHLAの型が一致する人から造血幹細胞の提供を受ける必要があります。HLAが全て一致する確率は兄弟姉妹で4分の1、それ以外の血縁者では約100分の1、非血縁者では数百~数万分の1です。HLAが全て一致する人がいないときにはHLAの一部が一致していないバンクドナーや実子、親など半分の型が一致する人から同種造血幹細胞移植を受ける場合もあります。
参考資料
もっと知ってほしい慢性リンパ性白血病のこと 2021年版,pp.11