膀胱がんの手術法
Q.どのような手術が行われるのですか
A.筋層非浸潤性がんの場合には、膀胱鏡と高周波電気メスでがんを切除する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を行い膀胱は温存します。
筋層浸潤性がんは、膀胱全摘除術で膀胱と周囲のリンパ節、隣接する臓器を摘出するのが標準治療です。
●経尿道的膀胱腫瘍切除術とは
膀胱がんでは、まず全員に、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)が行われます。TURBTは、下半身麻酔(腰椎麻酔)を行い、切除用の膀胱鏡を尿道の出口から膀胱内に挿入し、モニターでがんの場所を確認しながら高周波電気メスで病変を切除する方法です(図表6)。
病変の大きさや数にもよりますが、治療時間は30分~2時間程度で、一般的には4~5日の入院が必要です。病変部の場所によっては、足が動いてしまうことを防ぐために、足のつけ根に麻酔薬を投与する閉鎖神経ブロックを行う場合もあります。
TURBTの目的は、①膀胱内のがんを取り除く、②切除した病変を顕微鏡でみる病理検査で詳しく調べ、がんかどうか、がんであればその広がり方、タイプ、深達度を確定診断することです。TURBTは検査と治療を兼ねています(「膀胱がん検査」)。
生検の結果、筋層非浸潤性がんであることがわかれば、開腹手術で膀胱を取り除く必要はなく、TURBTだけで外科的な治療は完了します。ただ、病理検査の結果、さらに念入りに病変を除去する必要があると判断されたときには、再度TURBTが実施されることもあります。
TURBTは開腹手術に比べれば負担の少ない治療法ですが、出血、膀胱に小さな穴が開く、発熱などの合併症が発生するというリスクもあります。また、TURBT後は、ほぼ100%血尿が出ますし、ほとんどの人は、しばらくは排尿しにくかったり、排尿のときに痛みを感じたりします。
最大の利点は、TURBTだけで外科的な治療が終われば膀胱を残せることです。治療がすべて終わって1か月ぐらい経てば、排尿の状態もほぼ元通りになります。
●浸潤性がんの標準治療は膀胱全摘除術
筋層浸潤性がんの場合にはTURBTだけでは不十分であり、全身麻酔をして開腹し、骨盤内のリンパ節と膀胱をすべて摘出する膀胱全摘除術を行うのが標準治療です。膀胱に隣接している臓器にもがんが広がっている危険性があるので、男性は前立腺と精嚢、女性は子宮、場合によっては卵巣、腟の一部まで一緒に摘出します。また、尿道にもがんが広がっているときには、尿道も切除します。
膀胱全摘除術では、開腹手術に比べて患者への体の負担が少ない腹腔鏡下手術やロボット支援腹腔鏡下手術(ロボット手術)が保険適用になっています。腹腔鏡下手術は、腹部に複数の穴を開け、そこから小型カメラや手術器具を挿入して行う手術法です。ロボット手術は、手術支援ロボットを用いた腹腔鏡下手術で、拡大された3D画像を見ながら手術を進めます。ロボット手術や腹腔鏡下手術は、開腹手術に比べて手術時間は長いものの、出血量が少なく、手術後の回復が早いのがメリットとされます。
膀胱を摘出すると尿をためる袋がなくなってしまうので、膀胱全摘除術と同時に尿路変向術を受ける必要があります(「膀胱がんの膀胱摘出後の排尿方法について」)。
膀胱全摘除術の主な合併症は、出血と腸閉塞です。出血に備えて自分の血液を取っておき、それを手術中に輸血することもあります。前立腺と直腸が癒着していた場合には、癒着をはがすときに直腸に穴が開くケースがあります。まれに大きな穴が開いた場合は一時的に人工肛門を造設することになりますが、症状が落ち着けば元通り排便できるようになります。
また、男性の場合は、前立腺と精嚢を摘出するので射精ができなくなります。がんの場所によっては性機能に関係する神経を温存して、勃起機能を残すことが可能な場合もあります。性機能を温存したいときには、担当医に伝えましょう。ただ、神経が温存できたとしても勃起不全(ED)になる場合があるので、過度の期待は禁物です。
●浸潤性がんの膀胱温存療法
標準治療ではありませんが、筋層浸潤性がんでも腫瘍が小さくて数が少なく、隣接臓器やリンパ節にがんが広がっていない場合は膀胱温存療法を行うことがあります。
膀胱温存療法では、まずTURBTで可能な限りがんを取り除きます。その後、足のつけ根から入れたカテーテル(管)に抗がん剤を注入する動注化学療法と放射線療法を同時併用し、膀胱に残っているかもしれないがん細胞を叩きます。膀胱を温存できればそれに越したことはありませんが、膀胱全摘除術と同じような結果が得られるのか、はっきりとは証明されていないのが現状です。この治療を受けるかどうかは、再発の危険性もよく吟味して検討しましょう。
膀胱がんの放射線療法
放射線療法は、がんの三大療法の1つで、がん細胞を死滅させるために高エネルギーのX線を照射する治療法です。膀胱がんで放射線療法が行われるのは、主に、筋層浸潤性がんで膀胱温存療法をする場合です。
患者さんの強い希望で膀胱温存療法を行う際には、膀胱に残っているかもしれないがん細胞を叩くために、薬物療法と同時併用で、体の外から膀胱とその周囲に放射線を照射します。照射する放射線の量は病院によって異なりますが、1回1.8~2グレイ×週5回、合計60~70グレイ照射するのが一般的です。病院によっては、特殊な放射線である陽子線が治療に使われます。
また、転移がんの場合は、痛みや不快な症状を軽減するために放射線療法を活用します。膀胱痛や血尿、骨やリンパ節などへの転移の症状に対して放射線を照射すると、症状が和らぐ効果が期待できることがわかっています。
参考資料
もっと知ってほしい膀胱がんのこと 2022年版,pp.8-9