慢性リンパ性白血病の治療
Q.慢性リンパ性白血病ではどのような治療が行われるのですか
A.抗がん薬による薬物療法によって異常なB細胞を可能な限り減らし、よりよい状態が長く続くことを目指します。治療方針は、年齢や全身状態、本人の希望、特定の染色体・遺伝子の異常の有無によって異なります。
白血病の治療は日本血液学会やNCCN(世界の主要ながんセンターの同盟団体)、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)が作成したガイドラインによって標準化されています(図表7)。標準治療は、国内外の臨床試験の結果をもとに科学的に検証され、専門家の間で合意が得られている、現時点で最適な治療法です。
CLLの遺伝子診断
CLLでは、染色体や遺伝子の異常の有無によって治療方針が変わってくるため、その有無を調べる遺伝子や染色体の検査が重要です。特に、17p欠失やTP53遺伝子の変異や欠失があると、FCR療法が効きにくく、完全寛解が得られても、比較的早い段階で再発しやすい傾向があります。また、NOTCH1遺伝子、SF3B1遺伝子の変異がある場合にも予後が悪いことがわかっているので、17p欠失やTP53遺伝子の変異や欠失がある人と同じような治療を検討します。
肺がん、消化器がんなど固形がんの治療では、次世代シーケンサーでがんの組織や血液の遺伝子異常の有無を解析し、治療法を選択するゲノム医療が実用化されています。CLLの治療も、遺伝子や染色体の検査の結果によって、個々の患者さんに合った治療法を選択する時代になりつつあります。
◆治療を開始せずに経過観察
改訂Rai分類で低リスクか中間リスク、あるいはBinet分類AかBで、なおかつ活動性病態がない場合には、すぐに治療を開始せず、経過観察で様子をみます。CLLの患者さんの中には、治療をせずに経過をみているだけでは不安だという人もいるかもしれません。しかし、CLLの場合、初期で活動性病態がない状態で治療を受けても、生存率を改善する効果がないことがわかっています。
ただし、病気は徐々に進行しますので、2〜3か月に1回程度病院へ通い、必要に応じて検査を受けながら経過をみることが大切です。図表6のような活動性病態がみられた場合には治療を開始します。経過観察中でも、リンパ節の腫れ、発熱、腹痛といった症状が出たら受診するようにしましょう。
◆初回治療は標準治療が可能かどうかで選択
薬物療法は、年齢、身体的および社会的状態、そして病気の状態によって決められます。標準治療が実施可能な状態(Fit)、そうではない状態(Unfit)、また薬物治療のメリットが少ない状態(フレイル)といったFitnessを考慮して選択することが一般的です。
Fitnessは、年齢、心臓、肺、肝臓、腎臓などの機能、併存疾患や感染症の有無、全身状態などによって総合的に判断されます。特に高齢者では高血圧症や糖尿病といった併存疾患の有無や病状をCIRS-G(併存疾患指数)を用いて評価することが多くなっています。CIRS-Gは14領域を各5段階で評価するもので、数字が大きくなるほど重症度が上がります。この尺度は臨床試験でも使われます。
一方で、治療内容によりFitnessの基準は変わっていきます。
◆標準治療ではイブルチニブが第1選択に
CLLの治療で従来からよく用いられてきたのが、フルダラビンとシクロホスファミド、リツキシマブを併用するFCR療法、イブルチニブ、ベンダムスチンにリツキシマブを併用するBR療法です。これらの治療法を相互に比較する臨床試験の結果から、現在は年齢にかかわらずイブルチニブが選択されることが多くなりました(イブルチニブとリツキシマブの併用も有効とされますが、この併用療法は保険適用になっていません)。
イブルチニブは異常なB細胞の増殖を阻止するブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬で、1日1回毎日服用する薬です。入院が不要で、重い副作用が比較的少ないため、高齢者にもすすめられる治療です。ただ、イブルチニブは心房細動のような不整脈、血小板機能の抑制、脳出血などの重大な出血の副作用が出やすいので、抗凝固薬や抗血小板薬を服用している人は注意が必要です。
FCR療法は入院治療で、28日を1サイクルとし、1~3日目にフルダラビンとシクロホスファミド、1日目にリツキシマブを点滴投与し25日間休薬、これを4~6サイクル繰り返します。ただ、骨髄抑制(白血球などの減少)のような重篤な副作用が出やすいため、比較的体力があって持病のない人に向きます。若年者で、Fitの患者さんでは標準治療の一つです。また、免疫グロブリン重鎖(IGHV)遺伝子の体細胞遺伝子変異がある場合、FCR療法は長期間にわたる効果があります。ただ、感染症の流行下では、骨髄抑制やBリンパ球の機能を低下させるFCR療法を実施するかどうか、担当医との相談が必要です。
BR療法では28日を1サイクルとし、1〜2日目にベンダムスチンを点滴投与し、26日休薬して、4〜6サイクルで繰り返します。リツキシマブは1日目に併用します。1サイクル目の初回投与時は入院治療、2回目以降は通院治療が一般的です。
◆Fitで17p欠失、TP53遺伝子変異・欠失がある人の治療
17p欠失、あるいはTP53遺伝子に変異や欠失がある場合もイブルチニブが第1選択です。イブルチニブが使えないときにはBR療法かFCR療法になりますが、効きにくい傾向があります。また、再発・難治性の場合はBTK阻害薬第2世代のアカラブルチニブが使用できます。ただし、アカラブルチニブはイブルチニブと同じ分子に作用するため、イブルチニブが効かなくなった場合には効果を発揮しにくいことが知られています。
17p欠失あるいはTP53遺伝子の変異や欠失があると、完全寛解が得られたとしても早い段階で再発しやすいため、同種造血幹細胞移植も選択肢となります。ただ、最近では再発後のBCL-2阻害薬ベネトクラクスとリツキシマブの併用療法が効果を上げており(「慢性リンパ性白血病の再発」にて記載)、同種造血幹細胞移植の適応患者さんは少なくなってきています。
完全寛解(完全奏功)とは
白血病による症状がなくなり、血液検査、骨髄検査、画像診断で調べる限り白血病細胞がなくなって造血機能が回復した状態が完全寛解です。以下の5つを満たす状態が3カ月以上継続すると、「血液学的完全寛解」(完全奏功)と判定されます。
①血液中に異常なB細胞がない(4000μL以下)
②直径1.5㎝以上のリンパ節がない
③肝臓と脾臓の腫れがない
④体重減少、発熱、寝汗などの症状がない
⑤血球が回復(好中球が1500/μL超、血小板10万/μL超、輸血しない状態でHbが11.0g/dL超)
血液中または骨髄中のリンパ球1万個中に異常なB細胞は1個未満で、微小残存病変(MRD)が陰性になった状態が「分子生物学的完全寛解」です。治療ではできるだけ深い寛解である分子生物学的完全寛解を目指します。
◆Unfitの人の治療
Unfitと判断された場合もイブルチニブで治療できます。そのほか、ベンダムスチン単剤療法、減量FC療法、フルダラビン(F)療法、減量F療法、シクロホスファミド(CPA)療法のいずれかを行います。いずれの治療もリツキシマブと併用する場合があります。
F療法には、内服薬の選択肢もあります。1日1回5日間フルダラビンを内服し23日休薬して1サイクルです。CPA療法は1~3日目にシクロホスファミドを投与して25日間休薬します。
65歳以上の高齢者や持病がある人で、かつイブルチニブが使いにくい場合は、減量FCR療法、BR療法、ベンダムスチン単剤療法などを行います。
再発・難治の場合はアカラブルチニブ、ベネトクラクス+リツキシマブ療法もあります。
Unfitで17p欠失かTP53遺伝子の変異や欠失がある人はFitの人と同じようにイブルチニブの単剤投与が第1選択になります。
参考資料
もっと知ってほしい慢性リンパ性白血病のこと 2021年版,pp.8-10