胃がんの手術療法
Q.手術療法について教えてください
A.胃がんの手術は、縮小手術、定型手術、拡大手術に大別されます。また、Ⅰ期では腹腔鏡手術が適応されることもあります。
手術が多様化しているので、担当医とよく相談し、根治を目指して、がんを確実に切除する方法を選びましょう。
胃切除とリンパ節郭清を同時に行う
早期でもリンパ節に転移しやすい胃がんの手術は、がんが発生した場所を取り切る胃切除と同時に、転移やその可能性があるリンパ節(領域リンパ節)を取り除くリンパ節郭清(D1、D1+、D2)が行われます。
胃がんは、リンパ節転移があってもリンパ節郭清をしっかり行えば一定の確率で根治が期待できるため、以前は領域リンパ節をすべて切除する傾向にありました。しかし現在では、これまでの研究結果をもとに胃がんが発生した場所や病期に応じてリンパ節郭清の範囲が定められています。
D1郭清では胃の周囲にある領域リンパ節を切除します。D1+郭清ではD1郭清に加えて胃に栄養を送る血管周囲の領域リンパ節の一部を、D2郭清では領域リンパ節すべてを切除します。
リンパ節転移がなければ縮小手術も可能
胃を切除する範囲は、リンパ節郭清の必要性(転移・再発リスク)によって決まります。術前の検査でリンパ節転移がないと診断され、がんが粘膜下層までにとどまっている(ⅠA期)場合で、内視鏡治療適応外の早期胃がんでは、リンパ節郭清の範囲を縮小(D1/D1+郭清)できるので、胃の切除範囲も小さくすることが可能です(縮小手術)。
それにより胃の機能をできるだけ温存して胃切除後の障害を軽減し、術後のQOL(生活の質)の向上を目指します。
縮小手術の中には、胃の真ん中あたりに発生したがんに対する「幽門保存胃切除術」と、噴門に近いところに発生したがんに対する「噴門側胃切除術」などがあります。幽門保存胃切除術は、胃の上部3分の1程度と幽門前庭部を3~4cm程度残して胃を切除し、残った胃と胃をつなぐ術式です(図表8左上)。
噴門側胃切除術は、噴門を含めて胃の2分の1から3分の1を切除し、幽門側に残った胃と食道をつなぐ、もしくは食道と胃の間に10cm程度の空腸を入れてつなぐ術式です(図表8右上)。手術で切除する範囲を小さくしても適応をしっかり守れば、定型手術を行った場合と同じ程度に治ります。
リンパ節転移があれば定型手術が原則
リンパ節転移がないと思われる早期胃がん以外ではD2郭清が必要です。胃切除の方法としては、がんが胃の下部に発生している場合は胃の出口である幽門側から胃を3分の2以上切除する「幽門側胃切除術」を、がんが胃の上部または全体に発生している場合は胃全体を切除する「胃全摘術」を行います。
幽門側胃切除術は、がんの口寄りの端から2~5cm(早期胃がんで2cm、進行胃がんでは3~5cm)以上噴門寄りの部分から幽門までの胃の3分の2以上を切除し、残った胃と十二指腸あるいは小腸とつなぎ合わせる術式です(図表8右下)。
胃全摘術は、胃をすべて切除したあと小腸を切離し、食道まで引き上げてつなぎ合わせるとともに、十二指腸に分泌されるすい液などの消化液が小腸に流れ込むように、引き上げた小腸に十二指腸側の小腸をつなぐ術式です(図表8左下)。
胃全摘術あるいは幽門側胃切除術+D2郭清が胃がんの定型手術で、リンパ節転移が疑われる早期胃がんや進行胃がん(ⅠB期、Ⅱ期、Ⅲ期)の標準的な手術です。
ⅢB、ⅢC期では拡大手術が行われることも
ⅢB期、ⅢC期のうち、がんが周囲の臓器に広がっている場合は、定型手術では切除しきれません。しかし、ほかの臓器も一緒に切除すれば、がんを取り切れると考えられる場合は拡大手術が行われます。ただし、安全に実施できる施設は限られます。このような手術を必要とする場合は専門病院で受けましょう。
早期胃がんでは腹腔鏡手術も選択肢の1つ
早期がんには腹腔鏡手術が行われることも増えてきました。これはお腹に4~5か所の小さな穴を開け、そこから炭酸ガスを送り込んで腹部を膨らませ、内視鏡や手術器具を挿入して行う手術です。
腹腔鏡手術=縮小手術ではないため、切除範囲は開腹手術と同じですが、開腹手術に比べて体への負担が少なく、術後の回復も早いという利点があります。ただし、開腹手術と同じ程度に治るのか、長期的なQOL(生活の質)は良好かという評価は十分に得られていません。また、腹腔鏡手術による胃全摘術の安全性は、開腹手術に劣る可能性もあります。
近年は、腹腔鏡手術を発展させたロボット手術が試みられており、先進医療でその有用性が評価されています。ただし、ロボット手術の費用は全額自己負担になります(入院・検査等の費用は健康保険適用)。実施する病院も限られているので、希望する場合は担当医に相談してください。
胃がんの手術は多様化していますが、大切なことは、どのような方法であれ確実にがんとリンパ節を切除すること(局所コントロール)です。なぜなら、それが胃がんの根治性を高め、生命予後に大きく影響するからです。また、術前診断は20%程度で病期などの間違いがあり、手術はやり直しがきかないことを忘れないでください。
このことを踏まえたうえで、手術を受ける際は担当医とよく相談し、最適な方法を選びましょう。
参考資料
もっと知ってほしい胃がんのこと 2016年版,pp.10-11